ホビット

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裂け谷にあるエルロンド卿の館に辿り着いた。エルロンド卿はハンサムなダディガイでなんとわたしたちを追撃していたオークたちを追っ払ってくれたらしい。美しいだけでなくエルフって強いんだね。なんにしてもひと息つけてよかったよ。

エルロンド卿はわたしたちを歓迎してくれた。綺麗なハープの音色に美味しい食事。ドワーフたちは草やその実ばかりの食卓を見て嫌そうだけどわたし的にはこんな夕食は歓迎である。あの旅では野菜がまったく取れなかったから栄養バランスが偏ってそうだもの。ドワーフたちも文句を言わずたまにはしっかり野菜を取るべきである。

ビルボはエルロンド卿の館をわくわくした瞳で見渡していた。どうやらエルフに憧れを持っていてその館に招かれてかなり喜んでいるようだ。その気持ち凄くわかるわ。エルフってなんかこう神聖で伝説的な生き物だもんね。トップアイドルに会えたようなミーハーな気持ちになります。ちなみにエルロンド卿は数千、下手したら数万の年月を生きているらしい。アイドルどころか神様ですか?

その夜トーリンとガンダルフはエルロンド卿のもとに向かい地図の謎を解いてもらったらしい。あの頑固なトーリンをどうやってガンダルフは説得したのだろう?まあなんにせよ地図の謎が解けてよかったよ。

エルロンド卿が解いてくれた地図の言葉によれば秋の最後の日にその扉の前に行く必要があるらしい。まだ秋になるまで数か月はあるとはいえ距離があるし敵にも追われているしのんびりとしていられないようだ。

まあ今日はとにかくゆっくり休んで英気を養おう。というわけで晩御飯まで頂戴することになったのだがドワーフたちはぶーぶー文句を言う。そしてこんな飯じゃ食ったことにならん!肉が食いたい!といいわたしのアイテムボックスに入っている肉を出すようにいってきた。

えー、でもそれってせっかく歓迎してくれたエルフに対して失礼じゃないかな?お前らのもてなしでは満足できん!っていっているようなものだもんね。まあ実際に満足してないようだけど。

荒ぶるドワーフたちを沈める術を持たないので大人しくお肉を出すことにする。ドワーフたちは大喜びで肉を焼きだしたんだけどこれ絶対まずいよなぁ。あとガンダルフに怒られないといいんだけれど。

なんて思っているとエルフがやってきて『ナノ殿、エルロンド卿がお呼びです』と厳めしい顔でいう。え、呼ばれるのわたし?マジで?いやいやこの肉騒動の主犯はわたしじゃないよ。グローリンが食べたいっていい出したんですよ。

あまりに絶望的な顔をしてたからかビルボが僕もついていくよって言ってくれたけれど厳めしいエルフが、いえ、呼ばれているのはナノ殿だけです。とそれを制す。救いはないのですか?

仕方なしに厳めしい顔のエルフに連れられていくとそこには吹き抜けの庭園がありガンダルフとエルロンド卿が待ち構えていた。まさかのガンダルフ同伴でのお説教のようだ。そんな保護者同伴で怒られるのはいやです。


「悪いがビルボにはこの場を遠慮してもろうた。おぬしの素性について今一度エルロンド卿を交えて話し合いたかったのじゃ」


「ガンダルフから聞いたのだが君は魔法を使えるらしいな。だがそれはありえないことなのだ」


どうやら肉騒動の説教ではないようだけれどもとんでもない話が始まりそうだ。すべてを話すことはできないが、と前置きをしてガンダルフとエルロンド卿は話始める。ガンダルフを始め中つ国には何人か魔法を使える者がいるがそのすべてがこの国の人間ではないらしい。遥か西の方にあるアマンというところから中つ国の人々が冥王サウロンを倒すための手伝いをするためにやってきたというのだ。


「魔法を使えるというのであればおぬしがイスタリである可能性は高いじゃろう。そのためにもおぬしが今まで生きてきた軌跡を知る必要がある。ナノ、おぬしは今までどのように生きてきたんじゃ」


「えっと、半年前からビルボ・バギンズの世話になりながら生きていました。それより前のことに関してはよくわからなくてビルボがいうにはわたしは空から落ちてきたそうです」


「なんと!空から落ちてきたとな!」


エルロンド卿の驚いた声が辺りに響く。真剣な話し合いのようなので日本のことを除いてふたりに聞かれたことを話す。まあさすがに現代社会のことは話しにくいんでそれはよほどのことがない限り話すのはやめておこう。このファンタジーな世界で現代社会のこと話すのってなんか嫌じゃん。

だが、ふたりはわたしに半年前の記憶がないことより空から落ちてきたことの方が重要らしい。顔を見合わせ頷いている。


「イスタリというのであれば海を渡ってくるのが普通であろう。これは判断が難しいな」


「いや、わしは今の話を聞いて彼女がイスタリである可能性が非常に高いと思った。確かにイスタリならば海を渡ってくるのが普通ではあるが空からの手段がないわけではない。記憶があいまいというのも来たばかりのイスタリの特徴に当てはまる。なによりやはり魔法を使える彼女がただの人間であるはずがない」


ふたりの話の結果ではわたしはどうやらイスタリとやらになるらしい。そのイスタリとやらが何なのかは知らないけど絶対に違うと思うぞ。わたしはただのバギンズ家の居候で勇者(仮)ある。

ガンダルフはわたしに優しく『今はわからなくてもそのうち自分の使命を思い出すじゃろう。魔法は使いすぎてはならんぞ。困ったことがあればわしに相談するのじゃ』という。いや、使命とか絶対にないですよ。なんか面倒な勘違いをされている気がする。

取り敢えずわたしの扱いはいったん保留となり旅を続けていこうという話になったのだが、皆のもとに戻ると誰もいなくなっていた。なんだ、と?

どうやらトーリンたちは先にエルロンド卿の館を出てしまったらしい。え、わたしは?ガンダルフもまだここにいるぞ?

心底エルフが嫌いなドワーフたちはエルフの力を借りるのもエルフの館にいるのも気にくわなかったのだろう。うん、まあ地図の謎が解けて秘密の扉が開くまであまり時間がないのはわかったけれどもわたしたちのこと置いていく必要はなくないですか?仲間はずれにされて泣きそうである。

すぐにガンダルフにドワーフたちがいないことを伝え急いで彼らを追う。せっかちなドワーフたちにわたしはため息をつかざるを得なかったのだった。




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