ホビット

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さて、諸君。わたしはビルボに成り代わったといったがまったくそのまま彼に成り代わったようではなかった。

映画で見たビルボよりさらに童顔で目がパッチリとしていて似ているようで似ていない。そして決定打は動くたびにぽよんぽよん揺れるこの大きな胸だ。ここまでいえばわかるだろう。なんとわたしはビルボ♀に成り代わってしまったようです。

あええええっ!?女の子ぉ!?ビルボ、女の子になっちゃったの!?女の子でもビルボは可愛いけどね!でもこれってどういうことなの?!!

実は原作のビルボも女の子だったとか。いやさすがにそれはないか。いくらビルボが可愛くても性別は見間違えませんよ。ということはわたしという異分子が混じったせいでビルボの性別が変わっちゃったというのが有力説か。うーん、わからんけどまあいいや。わたしとしても男として生きるより女である方が生きやすいもんね。

まあ性別が変わっちゃったのはひとまず置いといてドワーフを迎えるために大急ぎで晩御飯の用意をする。幸い食料庫はいっぱいなので材料に悩む必要はなさそうだ。ごめん、ビルボ。勝手に食材使っちゃって。エレボールを取り戻したら出世払いするから許してくれ!

台所の勝手が違うから料理には少し苦戦したが一人暮らしを何年もしてきたのだから料理ができんことはない。大きなテーブルが埋め尽くされるくらい料理を仕込んだ。ついでに13人のドワーフとガンダルフが席につけるように家中からイスを引っ張り出して場所を確保する。ビルボのじいさんの椅子とやらはどれなのだろう?まあいっか。

外がすっかり暗くなり家中のろうそくに火をつけているとドンドンと少し乱暴にドアがノックされた。きたああぁぁーー!!!


「ドワーリンだ。at your service」


「ビルボです!at your service!さあさあどうぞこちらへ。夕食の準備は出来ているので好きなだけどうぞ!」


最初に来たのは原作通りドワーリンだ。厳つい顔にスキンヘッドという幼い子がみたら間違いなく泣いてしまいそうな彼だがわたしの心は原作キャラに会えたことで弾んでいく。うわぁああぁん!!ホンモノだよ!あとでサインもらおう!

ドワーリンはわたしの大歓迎の様子に少し困惑しているようだがわたしに案内されるままに着いてくる。そしてテーブルの上にある大量のごちそうを見ると唸り声をあげた。


「これほどまでのご馳走を用意して貰えるとは。有難い。心遣いに感謝する」


「いえいえ、とんでもない。今日は旅の疲れを癒してください!」


コンコン


ドワーリンを席に案内するとまたドアがノックされた。すぐさま扉を開くとそこには白髪のチャーミングなおじいさんがいた。バァァリィィィン!!バーリン!本物のバーリンだ!ちょこんと立っているその姿だけできゅんと胸がときめく。本物は画面越しよりさらに可愛いです。


「バーリン。at your service.」


「ビルボです!at your service!ようこそおいで下さいました!ドワーリンはもうすでに来てますよ!ご馳走もたくさんありますので遠慮なく食べて下さい!」


「こりゃまた、こんなに歓迎して頂けるなんて驚きました。遠慮なく頂くとします」


ニコニコしながらドワーリンの元に向かうバーリンを見送るとまたドアが叩かれる。ああ!次は確か、

急いでドアを開けると美青年2人組みがそこに立っていた。2人ともニコッと笑うとドワーフ式の挨拶の挨拶をする。


「フィーリ。at your service!」


「キーリ。at your service!」


「ビルボです!at your service!ああっ!フィーリにキーリ、君たちを待っていたんだよ!会えて嬉しいよ!荷物預かるね」


「俺たちのこと知っているのかい?ホビット族に知り合いはいないけど」


「なあ、それよりもビルボ。あの奥に並んでいるご馳走って食べていいんだよな?もう俺腹ペコだよ」


「勿論です!たくさん食べて下さい!」


不思議そうに首を傾げるフィーリをキーリが引っ張っていく。私は2人から荷物を受け取りそれを宴会の邪魔にならないところに置く。キーリにフィーリ、会えて本当に嬉しい。原作では救われなかった彼等が笑って動いているだけで胸に熱いものがこみ上げてくる。

本当に目頭まで熱くなり始めたので慌てて涙を拭う。泣いているところをドワーフたちに見られたら説明できないしまだまだお客様はやってくるのだ。その瞬間後ろのドアにノックが木霊した。急いでドアを開ける。

その瞬間たくさんのドワーフたちがドアあら雪崩れ込んできた。そのおかしな光景に笑いながら挨拶の言葉を口にする。


「ビルボです。at your service!皆さん今日は来てくれてありがとうございます。心から歓迎しますよ!美味しい料理やお酒を用意しているので好きなだけ食べてくださいね!」


その言葉とともにドワーフたちがリビングに押し寄せる。その様子が面白くてクスリと笑うとドワーフたちの後ろから長身のお爺さんがやってきた。私は彼にも挨拶をする。


「ようこそガンダルフ。今日は楽しんでくださいね!」


「おお、ビルボ。まさかこんな歓迎を受けるとは思っていなかったから驚いたわい。旅で疲れたドワーフたちもこれで休まるであろう」


そう言ってにっこり笑いながらガンダルフはドワーフの元に向かう。私もそのあとに続く。広間はどんちゃん騒ぎだった。

愉快なドワーフたちが飲み食いし時に下品な音を立てながら楽しげに笑う。お酒が入るとさらに陽気になるのか歌ったり踊ったりして大いに盛り上がった。私も皆に歌を披露した。選曲がアンパン○ンとかだったのは許してほしい。

そうして宴を楽しみひと段落したしたところでドンドンとまたドアが叩かれた。その音にどきりと心が騒めく。まだ来ていなかったこの旅の主役がやってきたのだった。

私は急いで駆け出しドアを開ける。暗闇の中から出てきたその人は闇に溶け込めるような黒髪を持ちながら周りを圧倒するようなオーラを纏っている。

鋭い鷹のような目の中に野望と希望と深い哀しみを持ち合わせる男、トーリン・オーケンシールドがやってきたのだ。


「ガンダルフ、場所はすぐにわかるといったが2回も道に迷ったぞ。ドアの刻み文字に気づかなかったらたどり着かなかった」


「ビルボ、紹介しよう。トーリンだ。トーリン、こちらがビルボだ」


「これが噂のホビットか。剣は得意かな?」


「いえ、刃物は包丁とハサミしか持ったことがないです。でもやる気はあります!必ずお役に立ちますからどうか私も連れていってください!」


私の目の前にはあのトーリンがいる。それだけで胸が張り裂けそうなほど色々な想いでいっぱいになった。トーリンのことが好きだ。物語の中のこの人に恋をして好きで好きで堪らなかった。愛しいという気持ちが溢れてきた。だけれどもそれと同時に悲しみが胸を切り裂き痛みでどうにかなりそうだった。

この人はこれから死んでしまうのだ。もう物語の中のことだけだと言い訳することもできない。この世界は私の現実となった。何もしなければ画面の向こうと同じこの人の命は消えてしまうのだ。

トーリンに剣が使えるかと聞かれ使えないけれどもやる気はあると答える。本当のことだ。助けたい。トーリンが生きて彼の作る王国を見てみたい。そのためならなんだってする。

私の言葉にトーリンは手を顎に当て値踏みするように視線を降ろしその後ろでガンダルフが満足そうに笑っている。


「だがこんな嬢ちゃんを旅に連れていって大丈夫か?戦えないし女だぜ?」


「ビルボが役に立つことはわしが保証する。ホビットは俊敏で器用だ。それにドラゴンはドワーフの気負いは嗅ぎ慣れているがホビットの臭いは知らん。わしを信じろ。ビルボ以上に適任はいない」


「・・・いいだろう。契約書の準備を」


どうやらガンダルフの説得によってトーリンは私を仲間に加えてくれるようだ。まだ信用されていないだろうけど旅についていけるなら今はそれでいい。あの最後の瞬間に居合わせて必ずその彼らの運命を変えてみせる。

バーリンに渡された契約書にサインをする。こうして私は旅の仲間に加わったのだった。




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