ホビット

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どうも、家に逃げ帰った白いドラゴンです。前回話せるようになって嬉しさのあまりトーリンのところへ行ったものの結局のところドワーフを吹っ飛ばして終わるという大失敗に終わりました。もうこれはやってしまったよ。ただでさえ竜という事で印象がよくないのにわざとではないとはいえお仲間を傷つけたのだから嫌われたのは確実だな。もう終わりですよジ・エンド。私の竜生は終了いたしました。

とてもじゃないけどもう竜の姿ですトーリンの前には現れられない。ということでもうこれはアレしかない、『人化』する以外方法がない!え、そんなのホビットで聞いたことないって?うん、私もないね。でもなくてもやるしかないんだ。私は『人』の姿になるのだ!

そもそも竜であることが間違っていたのだ。トーリンの大っ嫌いな竜の姿をしていてと仲間として受け入れられるわけがない。ならばトーリンと同じように人の形をして彼らの仲間になるべきだ。

問題は私が人化できるかどうかなのだがぶっちゃけ思いつきでいっているだけだから方法とかわからないんだよね。うーん、ファンタジーの世界だしなんとかなりませんかね?まあとにかくトーリンが旅に出るまで100年くらいあるしじっくり考えよう。ん?でも私ボイストレーニングに30年くらいかかったんじゃなかったっけ?…間に合うかな。

それから姿を変えるために色々努力した。自分の身体を調べたり森に薬になる物を探しにいったり中つ国中を飛び回り美味しい物食べたり綺麗な物みたり、うん、途中から中つ国満喫してましたね。だって憧れの中つ国にいるんだから色々見て回りたいって思ってしまうのも当然でないか。それから空を飛んでいてオークやゴブリンなんかを見かけたらブレスをはいてやったりもしたぞ。トーリンを困らせるオークとゴブリンは超絶許さんから氷の彫刻にしてやりました。

だが私もただ遊んでいたわけではない。身体を動かす時に自分の中に冷たくて身体中を駆け巡っている何かがあることに気付いた。その何かはブレスをはくときには熱く燃え滾り力を湧き起こさせてくれる。うん、思ったんだけどこれ魔力じゃない?ファンタジーな世界観のくせに魔法使いが物理で敵を倒すシーンの多いこの物語だけれども魔力という物もきちんと存在する。

それは魔法使いやエルフといった1部の種族しか持ち合わせていないものだがドラゴンなら持っていてもおかしくないよ!やったー!魔力があるなら魔法も使えるはず!ということは人型になれるかもしれない!

しかし魔力があっても使い方がわからない。確か魔法を使う人々は杖を持っていたはずだけれども私は持ってないし持ってたとしてもこの身体では使えない。どないすればええねん。なんか腹が立ったらお腹すいた。ちょっと鹿肉をもぐもぐっと。

あー、もー、私は変身したいんだよ!変身呪文でも唱えてみるか。むーんぷりずむぱわー・めいくあっぷ。月に代わってオシオキよ!なんつって。

と冗談半分で呪文を唱えた瞬間私の身体が白く光り始めた。ええええ!?これで成功なの!?美少女戦士に変身する呪文で変わってしまうの!?ちょっとまって、心の準備が。あわわ

身体中が光に包まれそして姿が変わっていく。そして光が消える頃には鱗に覆われた身体も鋭い爪も尖った牙もなくなっていた。私の手足はほっそりとした人間のもので顔の横には銀色の髪が垂れている。

以前竜の姿を写した氷を覗き込むと透き通った青い瞳の顔の造形が整った女性の姿をが写っていた。元の私を100倍くらい美形にしたら少しは似るかもしれない、つまり比較にならないくらいの美人な女性に私は変わっていたのだ。

ここまでの美女になるとは思ってなかったな。ちょっと顔立ちが整いすぎていて怖いレベルだ。それから思ったんだけど耳が尖っているんだよね。銀髪で耳が尖っていて美形、うん、ひょっとして私はエルフの姿をしているんじゃないか?

その瞬間とてつもない絶望が私を包んだ。

エルフか、いや実際にエルフになったわけではないけどエルフに見えるというだけで大問題なのだ。前世でこれだけ美人だったら人生楽しかったかもしれないけど今世ではエルフの容姿はありがたみも何もない。何故かというと我等の王であるトーリン・オーケンシールドは一に竜で二にエルフが大っ嫌いなのだ。いや、ひょっとしたら順番は逆なのかもしれない。つまりそういうことだ。

私はトーリンが最早憎んでいると言っても過言ではないエルフの姿になっているのだ。選択出来る種族が竜とエルフしかないなんてあんまりだよ。女神様、もう少し私の願い叶うようにご助力いただけないでしょうか。

問題はもう1つある。こちらの方はエルフの姿をしていることと比べたら大したことではないけれどもこれからの行動に大いに関わってくる。私は今艶かしい肌と緩やかに起伏する双丘を晒している。つまり裸なのだ。

何かで身体を覆うにもここは氷の世界だ。葉っぱ1枚見当たらないのにとてもじゃないけど衣服なんて用意できるわけがない。

人型になるのを試みるよりも前に衣類の準備が必要だったな。でもまあ装備について考えるいい機会になったよ。何を身に纏おうか。

単純に衣類が欲しいならゴブリンを仕留めて追剝ぎをすれば最低限の布は手に入る。だけれどもそんな粗悪な装備で旅に出ることは当然できない。今の私の肌は全世界の女性が嫉妬するレベルで綺麗だけれども竜の鱗の肌に比べたら全く戦いには向いていない。爪もないし牙もないのだから武器も用意する必要がある。

スマウグと戦うのにその辺りの装備では心許ない。どうやって用意しようかと考えたところで氷の洞窟の隅でキラキラと輝くものに気が付いた。

ああ、そうか。アレを使えばいいのか。邪魔だし使わないのに溜まるばかりだからどうしようかと思ってたんだけど良い使い道を見つけたよ。

それは私の鱗と牙だ。なんか痒くて掻いていたらポロリと取れてめっちゃ驚いた。でもよくよく考えると私もこの世界に来て何十年も過ごしているのだから鱗や牙も生え変わるだろう。自前とはいえ竜の素材ならそれなりのものが出来そうだから鍛冶屋も探さないとな。出来ればドワーフに鍛えてほしいよ。

やることが決まったので竜の姿に戻り外に出る。さすがに露出狂の汚名は着たくなかったので裸でも許される竜の姿で空を駆け巡る。

さて、どうやって衣服を手に入れようかなと思ったら下の方でゴブリンと人間が戦っているのが見えた。どうやら人間側がやや劣勢のようだ。これは良いタイミングなんじゃないかな?戦争が起きる→死体でできる→剥ぎ取って服ゲットができるではないか。

そうと決まれば即参戦。そのまま降下しゴブリンの方にブレスを吐き出す。急な上空からの攻撃にゴブリンたちは全く対処できず慌てふためき吹き飛んでいた。

それにより人間側が圧倒的に有利になり一気にゴブリンを殲滅していった。うん、良いお仕事したね。後々トーリンを困らせるゴブリンまじ許すまじなので世界からゴブリンの数々が減ってくれるのは実に良いことだ。


「あれはドラゴン?何故我々の味方を?」


「あのドラゴンはおそらく白銀の竜アイリスだ。闇の者に与しないドラゴンだとは聞いていたがまさか助力くださるとは」


私が参戦したことで人間側の兵士が騒めく。まあ突然竜が現れて敵を蹴散らすんだからそりゃびっくりだよね。取り敢えず戦いが終わったので皆様方退散してもらえませんか?私はこの場に用があるのです。

衣服を手に入れるために私が考えたのは手っ取り早く死体から剥ぎ取ることだ。持ち主が死んだ服なら勝手に使っても怒られないだろう。というわけで早くどっかに行ってくれないかなー。さすがにお仲間がいる前で兵士の服剝ぎ取るのは気がひけるわ。

兵士たちは最初は私の存在に怯えていたがやがて私が敵ではないとわかると落ち着きを取り戻し何やら作業を始めた。帰り仕度かな?よしよし、早くここからいなくなってくれ。


「よし!白銀の竜アイリス殿は我々に危害を加えるつもりはないらしい。仲間の死体を弔ってやれ!」


「おう!」


そういって兵士たちは仲間の死体とそれからゴブリンの死体を積み上げていく。うん、何するんだ?その様子をじっと見ていると何やら燃料みたいなものをかけてそして火をつけた。…え?

私はその様子を呆然と見ていた。え、燃やしちゃうの?あ、そうか。死体ってそのまま放置しておくと悪い病気が流行るんだって?ならば燃やすのは仕方ないかもしれないけどちょっと待って欲しかった。私の服どうするの。

火はごうごうと燃えている。消すことは簡単だけどそんなことすると兵士たちに不審に思われてしまう。うん、詰んだわ。死体からホイホイ衣服剥ぎ取り作戦大失敗です。ならもうここにいても仕方ないので翼広げる。もうおうち帰ろうかな。


「アイリス殿、貴方の助力に深い感謝を。もしよろしければ我が国に招待してもてなしたいのだが、」


兵士のお偉いさんが何か言っていた気がするけれどそのまま翼を動かし上空に飛ぶ。今日はもう疲れちゃったよ。おうちでおいしいものでも食べよう。

そして家への帰り道氷山の途中で凍死している人を見つけて無事衣服をゲットしてしまった。こんな近場で得ることができたのか。私の遠出はなんだったんだろうね。



***


空高く消えていく白銀の竜を敬礼で見送る。人の言葉を理解すると聞いていたけれども国に呼ぶことはできなかった。礼を尽くしたいと思ったが竜と人では理が違うのだろう、交流を持つのはなかなか難しい。

白銀の竜アイリス、竜という種族でありながら闇に与せず数十年前には同じ竜である火竜族のスマウグと敵対しその身を盾に多くのドワーフを救った。さらにアザヌルビザールでの戦いでもドワーフを助けたことから彼らに『最大の友』と謳われ崇められている。

また他の種族にも友好的で人やエルフといった様々な種族を助けたという。今日我々も彼の竜に命を救われた。この恩義は我らローハンの騎士は生涯忘れないだろう。

人の生は短い。もう一度今世であの白銀の竜で出会えるかわからない。気高く美しい竜の姿を我々はいつまでも見送った。




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