ホビット

□1
1ページ/1ページ

ところで君たちはドラクエを知っているだろうか。知っているよね?RPGの王道、勇者となり魔王を倒すファンタジーゲームであるこのタイトルを知らない者がいれば余程のもぐりか電子機器もないような山奥に住んでいる者かの2択しかない。ドラクエ知らんとかありえへんやろ。名作だぞ。

さて、なんでいきなりドラクエの話しをしたのかというと理由はふたつある。まずは一つ目の今の状況について話そうか。

わたしの目の前には自然と田畑に囲まれたレンガや木でできた家々が広がり耳の尖った小人たちが闊歩する。川縁には水車が回り牛を作って田畑を耕しその脇で小人たちがパイプ草を吸う。まあ小人といっても身長120cmくらいはあるからそこまで小さいわけでないのだが、とにかくこれで私が現代日本にいるわけではないことは伝わったことだろう。

では、どこにいるかというと、はい。どうやらわたしは異世界にいるみたいです。しかも確証はないけどおそらくロードオブザリングリングの世界だよ。この小人さんたちの種族はホビットという名だし、ちらほらドワーフやらエルフやらの単語も聞こえてくる。ただ、これだけだと他の世界の可能性もある気がするからやっぱり確信は持てない。でも、なんとなく世界観的にロードオブザリングの世界の気はするんだよな。ガンダルフとか出てきませんかね?

まあというわけでわたしはファンタジーの原点と言われたこともある指輪物語の世界に紛れ込んだらしい。なんでとか聞かないでください。自分でもよくわかってないですし。こんな摩訶不思議なできごと説明できるはずがないのだ。

なんで異世界に来てしまったのかは不明だが来てしまったものはどうしようもないので今はとあるホビットの世話になりながら暮らしている。身寄りのないわたしを家に住まわせてくれたのはビルボ・バギンズ、ちっちゃくてくりくりとした目が可愛い彼はショタに見えるのにもうすでに年齢は50を超えているらしい。なんという異世界マジック。取り敢えずわたしはこの世界にきてショタジジというジャンルの魅力を知ったのだ。

突然やってきたわたしをビルボが家に住まわせてくれたのは彼が底抜けに優しいから、だけではなくてわたしが村の恩人だかららしい。

わたしは全く覚えていないのだが、ビルボ曰く村にゴブリンがやってきて戦うことが苦手なホビット達が苦戦していた時に空から落ちてきたわたしがゴブリンに衝突し見事ゴブリンを倒したらしい。

この話を聞いた時はマジかよ、と真顔になった。いくらファンタジーでも空から落ちてくるとかなくない?わたし飛行石を持つ少女ではないんだぞ?しかもゴブリンを倒したとかどういうこっちゃ。登場から働きすぎだろわたし。

わたしが目を覚ました時にはゴブリンなんておらずビルボの家のベッドで寝てたのでこの話は未だ信じきれていないでいる。やっぱりビルボがからかっているんじゃないのかな?まあ嘘でも本当でも家に居候させてくれるならなんでもいいや。細かいことは気にしないでおこう。

そういうわけで排他的と噂のホビット達にあっさり受け入れられてビルボの家にお世話になっている。ちなみに何故ビルボの家かというと余所者の人間にはと変わり者のホビットなら相性が良いだろうとのことらしい。まあ程のいい押し付けだ。貧乏クジ引かせてしまってごめんよビルボ。しかしビルボは客人をもてなすのは好きだし君がいると便利だからいいよと言ってくれる。天使か。わたしの心はもうこのショタジジの虜です。

現代社会からやってきたお荷物以外になりそうにないわたしだが以外とビルボの役に立っている。これがドラクエの話題を出した2つ目の理由だね。実は、わたしは、


「おーい、ナノ!ちょっと火を起こしてくれないかい?今日は豚のトロトロ煮を作ろうと思うから火加減を調節して欲しいんだ」


「豚のトロトロ煮だと?いくいく!すぐ行くわ!」


ビルボに呼ばれてすぐさま台所へ向かう。今日の夕食は豚のトロトロ煮らしい。とんでもなくうまそうだ。ほろほろ解ける柔らかい肉と口の中でとろける豚の脂を想像してじゅるりと口の中に唾液が溜まる。美味しいご飯のためにもひと頑張りしましょうか!

台所に行くとすでにビルボが薪をくんで鍋をかけていた。準備は万端だ。わたしは息を吸い込み薪に向けて呪文を唱えた。


『メラ』


その言葉とともにボッと火がつき薪がメラメラと燃えていく。火打石もライターも使わず薪に火がついたのだから他人から見ればさぞおかしな光景だろう。

さて、唱えた言葉から想像できたと思うが答えをいうと、どうやらわたしはドラクエの勇者の能力を持っていて魔法を使うことができるのだ。

理由は全くわからん。これが噂のトリップ特典というやつだろうか。にしても元の世界でも勇者()なんて職業に就くような奇抜なことしてなかったのに本当になんでこんな力を持っちゃっているのだろうね。能力は便利だから勇者の力を持っているのは有難いっちゃありがたいんだけど、これで勇者だからお前ちょっと魔王倒してこいよとか言われないですよね?そんなこと言われたら全力で逃げ出す自信あるぞわたし。

ちなみにメラの他に『ホイミ』も使えたりする。回復魔法を使えるなんて凄いと思うかもしれんがホイミで回復できるHPなんて30そこそこだし軽い怪我くらいしか治せない。しかし何故か腰痛は治せたりする。おかげでご近所の爺さん婆さんにはモテモテだ。うん、何かが間違ってるね!

心の中で強く念じるとステータス画面みたいなのが視界に現れて自分の今の状態を知ることが出来たりする。ちなみに今のステータスはこんな感じである。


勇 者 ナノ
せ い べ つ : お ん な
レ ベ ル : 4
H P : 3 2
M P : 9

▶︎魔法
メラ
ホイミ


まさにドラクエという感じの表記だけれどもここはドラクエではなくおそらく指輪物語の世界だ。どちらが危険かと聞かれれば答えには迷うけどね。どっちも世界もラスボスが強敵すぎる。

それとレベルが4になっているのは少し首を傾げた。普通ゲームではレベルは1から始まるものなのだけどこれもトリップ特典という奴だろうか?それにしては中途半端なレベルな気がするんだよな〜。いや、そういえばこの世界に来た時にテレレレッテッテッテーって感じのドラクエのレベルアップのBGMが聞こえてきた気がするぞ?あれ、まさか本当にビルボの言う通り空から落ちてきてゴブリン倒しちゃったのか?そんなことどこぞのシータさんもしてないぞ。


「言葉を言うだけで火がつくなんて相変わらず魔法って不思議だなあ。じゃあそのまま弱火でしばらく煮込んでくれる?」


「わたしにとってもなんでこんなことが出来ちゃうのか不思議なんだけどね。OK。弱火を維持しておけばいいんだよね。任しておけ」


メラメラと燃えている炎を小さくするように意識すると炎はみるみる小さくなって消えることなくゆらゆら揺れた。わたしが魔法で生み出した炎はどうやら操ることができるらしく大きさを調節したり発火する場所を指定できたりする。おかげで火加減ができて料理の幅が広がる!とビルボに絶賛された。ガスコンロのないこの世界では薪の置き方や燃料で火加減を調節するから料理も一苦労なのだ。お役に立てて嬉しいね。わたしも美味しいご飯にありつけるし大満足である。

鍋の火に意識をやりながら料理の仕度を手伝っていく。台所には2人分とは思えないほどの食材が積まれているがこれは夕食と晩飯の分とも含まれているから妥当な量だ。

うん、夕食と晩飯ね。いい間違いじゃないよ。ホビットは食べるのが好きな種族で1日に6度ご飯を食べるらしい。おかげでついついわたしも食べ過ぎてしまいここにきてから少し太ったように感じる。…この作業終わったらちょっと外行って走ってこよう。


「魔法といえばさっき君以外の魔法使いにあったよ」


「え、魔法使い?」


ジャガイモの皮を剥いていると聞こえてきた言葉に意識を持ってかれる。魔法使いだと?おおぅ、ますますこの世界がファンタジーになってきましたな。まあ魔法使えるわたしがいうことでもないか。で、その魔法使いは何の用だったの?


「ウン、ガンダルフっていう名前の魔法使いでなんか仲間を探しているっぽかった。あ、そうだ。ガンダルフに君のこと話したら他に魔法を使えるものがいるとは、って驚いていたよ」


「あ、はい。そうなのですか。ガンダルフさんが来たんですね。ああ、マジか」


「ん?知り合いなの?」


「いや、名前を知っているだけど」


ビルボが会った魔法使いの名前はガンダルフというらしい。これは確定的で決定ですよ奥様。間違いなくここはロードオフザリングの世界ですね。超主要人物が訪れるなんてビルボも重要人物なのか?でもホビット族で需要人物ってフロド以外思いつかないんだよな。あ、いやまて。なんかフロドのファミリーネームがバギンズの気がしてきたぞ。ということはビルボはフロドの親戚かなにかかな?バリバリ原作にかかわる未来が見えてきましたね。わたし生き残れるかなぁ。

豚のトロトロ煮は夕食で食べきってしまった。上手にできていたからまた作ろうと思う。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ