series(ブック)
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次の日洗った弁当箱を持って金木が私のところに来た。どこか恥ずかしそうに見えるのは私の前で泣いてしまったからだろう。気にするな、男には泣かないといけない時もあるのだ。強く生きろ
「ミョウジさん、あの、これ本当にありがとう。すごくおいしかったです」
「いいよ気にしないで。ここまで喜んでもらえたら作ったかいあったわ」
「昨日の弁当はミョウジさんが作ったの?」
「そうだよ。私一人暮らしだしね」
そういうと金木は驚き神妙な顔つきになった。なに?まだいいたいことあるの?私早く帰って録画してた昼ドラみたんだけど。あのドロドロ感がたまらん。ミチコとユミの三角関係はどうなるのだろう。というか主人公はモテすぎだ。さっさと刺されないかな。
金木は眉をハの字に寄せすまなさそうに言葉を発した。うん、なに?
「あの、もしよければこれからもお弁当作っていただけませんか?」
「え゛」
「お願いします!僕どうしてもミョウジさんの料理が必要なんです!」
そういって金木はバッと頭を下げた。え、こいつ図々しいな。なんで彼氏でもない男のために弁当作らないといけないの?野良猫にエサをあげたらダメだとよく聞くけどこういうことか。なつかれてエサをねだられると困るもんね。すっごく理解したわ。私の相手は同学年の男だが。
もちろん嫌ですと返そうとしたが金木も別にただで私を働かせるつもりはないらしい。一食につき500円の費用を払うという。この条件にはふむ、と考え込む。
弁当なんか一人分作るのも二人分作るのも手間は変わらない。500円ももらえるなら圧倒的黒字だ。自分の弁当代まで出そうだ。ぶっちゃけ素人の作る弁当にかける値段ではないと思う。私の弁当に500払うなら吉野家いけよ。300円で牛丼食べれるじゃん。それでも金木は私の料理がいいらしい。変わった奴だ。まあいいよ。そこまでいうなら作ってもいい。これだけ熱狂的に求められるのは悪くない気分だ。まあ求められるのは私じゃなくて弁当だけど。弁当だけど。
そういうことで金木の弁当を作る生活が始まった。朝から弁当を作り昼に金木に会い弁当を渡す。そして代金を徴収する。これはまけません。だってボランティアじゃないもの。それからだんだん金木に会った後食べる場所探すのがめんどくさくなって一緒に食べるようになった。そのせいで金木の友達のヒデとやらに金木の恋人と勘違いされる羽目になった。やめろよ私は金木はタイプじゃないんだって。私は金木みたいな文学少年じゃなくてクールでちょっと悪っぽい奴が好きなんだって。性格悪そうな奴が好きなんだよ。一個上の先輩の西尾先輩とかがタイプです。でも西尾先輩には彼女がいるらしい。残念
そんな感じで毎日金木に弁当を作り届けるというヒデ曰く彼氏にメロメロな彼女のような真似事をしていたら再び金木が神妙な顔をして話しかけてきた。なんだよまた頼みごとかよ。条件によっては聞いてやらんこともないから取りあえずいってみろ。
「あの、ミョウジさん。聞いてほしいことがあるんだけど、」
「なに?明日のお弁当の具をハンバーグにしてほしいんだったら購買で売ってるプレミアムロイヤルミルクティーで手を打つよ」
「あ、本当?じゃあお願いします。えっと明日のお弁当の中身の話じゃなくて実は僕が働いている喫茶店のオーナーに会って欲しいんだ」
「ん、わかった。じゃあ明日はハンバーグにするわ。で、は?なんでいきなり金木くんが働いている喫茶店の店長と会う話が出てきたの?どういういう状況でそんな話題が発生するんだ」
取りあえず明日の弁当にハンバーグを作ればいいんだな、ついでに今日の晩御飯もハンバーグにしてしまおうなんて考えてたらいきなり始まった金木の話に眉を寄せる。なんで私が金木くんが働いている喫茶店の店長に会わないといけないんだ?どうしてそうなるんだし。
怪訝な顔をした私に金木はバッと頭を下げる。なんでこいつ私をマスターとやらに会わせるためにこんなに必死なの?マスターに脅されてるの?そんなバイトやめちまえ
「なんで私が君んとこの店長に会わないといけないんだよ。全然理由を想像できないんだけどなんで?」
「実はミョウジさんの作ったお弁当がおいしいって話をしたらマスターが是非ミョウジさんに会いたいっていってきて、」
「お前どれだけ話盛ったんだよ。ありえんだろ。普通喫茶店のマスターレベルの人が私みたいな一回の大学生の弁当がおいしいから会いたいっていわないんだよ。おら、吐け。何言ったんだ」
そういって金木に詰め寄る。うんだって話に現実味が無さすぎる。店やってるレベルの人がただの学生の料理が多少おいしいって聞いたからといって会いたいなんて思わないだろ?金木がホテルのビュッフェ並みおいしかったとか話を事実を過剰に言ったからに違いない。やめろよ私はそこまで自意識過剰ではないぞ!世間一般レベル以下しかできてないわ!というわけでギロリと金木を睨み付ける。すると金木はブンブン首を横に振った。
「ち、違うよ!僕は話を盛ったりなんてしてないしそれに実際にマスターもミョウジさんのお弁当食べたし変に期待とかしてないと思うよ?ただ純粋にミョウジさんの料理がすごいと思ったんだと思う」
「お前私の作った弁当を勝手によそ様に食べさせたりなんかするなよ。まあ金出したからその権利はお前にあるんだろうけどなんか恥ずかしいじゃんか。それにしてもマジか。世の中には一定数変わった味覚の人達がいるんだな」
金木の話を聞いて唖然とする。喫茶店のマスターが私の料理を食べてすごいと思った?逆にその喫茶店大丈夫か?まともな軽食出せてますか?いや、待て。すごく美味しいとはいってないぞ。あまりの不味さに驚いてこんなものをうちの可愛いバイトに食べさせやがって!許さん!絞めてやる!とかそっちの呼び出しかもしれない。赤の他人にそこまで言われる筋合いはないがまあいいや。行ってやってもいいよその喫茶店に。
「いいよマスターに会っても。今日の放課後でいい?」
「ほんとミョウジさん!すごく嬉しいよ!早速お店に連絡いれるね!本当にありがとう!!」
そういって金木は飛び上がらんばかりに喜んだ。こいつもなんか大袈裟過ぎない?まあいいよ。必要とされるのは気分がいいからね。
そういうわけで今日の放課後はあんていくとやらに行くことが決まった。
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