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夜も深まる頃酒場はそれなりの賑わいを見せていた。

海賊はかなり紳士的な振る舞いをしており町の人達も安心しきってる。今攻撃されたらあっさりこの町は墜ちるなと酷いこと考えながら酒を出す。売り上げだけでいうなら今日は絶好調です。

1人2人と酔い潰れる人が出る中酒場のドアがギィと開いた。見知らぬ男だった。

顔には隈があり人相は悪く背中には刀を背負っていた。

海賊か?と思ったがつなぎは着ていない。ハート海賊団はみんなつなぎを着ているはずだ。よくわからないが取り敢えず注文を取ることにした。



「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「…」


「あの、お客様?」



何故かわからないが顔を凝視される。なんだこの不審者。こええな、帰って欲しいです。
不審に思ってもう一度声をかけると男はハッとし帽子を深く被り直した。そして何事もなかったように注文をした。



「いや、なんでもねえ。取り敢えず酒をくれ。金はある。適当に出してくれ」


「かしこまりました」



よりによって何でもいいとはこれは困った注文だ。もしかして気に入らなければ背中の刀でグサリでしょうか?私に酒選ぶセンスあるかな。もうビールじゃだめ?

オマケにこの不審者カウンターに座りやがったよ。これは相手しなくてはいけないってことですか?ポニーさん助けてー!残念ながら今彼女は酔っぱらいの片付けをしてるようです。

しぶしぶカウンターに戻って適当な酒を出す。男は黙ってそれを飲んだ。取り敢えず悪くないみたいだ。よし、セーフ

でもこれからどうすればいいの?男は無言で酒飲みながらこっちをチラ見してくるんだが何かいいたいことあるんですか?察せれないのでマジ言ってください。

結局二人して無言になった。なんで酒飲みでこんな暗いだろ?これって私から話かけないといけないのかな?難易度高過ぎるので無理です



「ナマエちゃ〜ん、おかわりちょうだ〜い」


「あ、はい、かしこまりました。すぐにお持ちいたします」



その時タイミングよくお酒の注文を受けた。ナイスだトムさぁーん!いつもこの酔っ払いのオヤジうぜ絡んでくんなとっとと金落として帰れよとか思っててごめんなさい。助かった。

新しいお酒を持ってトムさんのところへ行こうとしたらガシッと腕を掴まれた。‥え?



「ナマエ?」


「え?はい?‥え?何でしょうか?」


「お前の名前はナマエっていうのか?」



何故かわからないけどカウンターに座ってた男に腕を掴まれた。いきなりなんだこいつ。

黙ってたと思ってたらいきなり腕掴んできたり何がしたいんですか?取り敢えずヘルプミー。不審者に捕まりました!



「おいおい、そこのお前。俺のナマエちゃんに何してんだぁ〜?放してやれよー!」


「俺のナマエだと?」



困っているとトムさんが助けに来てくれた。トムさんは今日は大金星です。キャー!ステキー!だがあえて言おう。誰がお前のナマエだボケェ!お前のもんになった覚えはないわ!お客様じゃなければかまいません

そしてトムさんの態度がこの男は気に食わなかったらしい。まあ、酔っ払いに絡まれたら誰だって不機嫌になるよね。でも次の瞬間トムさんが地面に沈んでました。ホワイ?

ドゴンッと音がしてトムさんが床に突き刺さっていた。目の前の男がトムさんの頭を掴んで床に叩きつけたのだ。床弁償しろよ

酒場内が静まりかえる。男のやっちまったという声が聞こえた。そして次の瞬間店内は叫び声に変わった。



「キャー!喧嘩よ!」


「あ、アイツ死の外科医じゃねえか?!ハート海賊団の船長だ!」


「海賊達が暴れたぞ!」


「ッチ、めんどくせえことになった。行くぞ」


「え?え?」



何やらわからないが男に抱えられ店を飛び出る。

ガヤガヤと聞こえた声によるとこいつは今この町にいる海賊のボスらしい。そういえば後で来るって言ってたね。人相も悪いし納得である。

で、なんで私はその海賊のボスに抱えられてるの?これ誘拐ですよね?何でこんな目に合わされてるの?助けてくれー!



「あの困ります。降ろして下さい!」


「うるせえ。その顔と名前が悪い!大人しくしてろ」



顔と名前が悪いって何それ理不尽。そんな生まれつき持ってるものにいちゃもん付けられたってどうしろというのだ。

今の時間は深夜、ただでさえ人通りの少ない時間なのに海賊が来てるせいでより人々が出歩かないため、静かな夜道を特になんの助けも入ることなく私は男に抱えられ海まで連れてこられてしまった。

海には黄土色の奇妙な形の船が停まっていた。船といえば帆船のイメージなのだがなんかコレは違うな。見たことないけど潜水艦っぽい



「船長お帰りなさ〜い。あ、その人酒場のお嬢さんじゃないですか。お持ち帰りするとは船長やりますね!」


「必要なもんは買い込んだな?すぐに船を出す。用意しろ」


「え?あ、はい!了解しましたキャプテン!」



船の上でほろ酔いモードの海賊達に男が一声かけると一気に酔いがさめたようで海賊達はバタバタと船の中に入っていった。

海賊達はもう出航するのか?それはいいことだ。例え何もなくともやはり町に海賊がいるだけで町の人達の不安が煽られる。出ていってもらえるならそれにこしたことはない。で、なんで私は抱えられているの?



「あの、離していただけませんか?まだ仕事残ってるので帰らないと」


「帰ってあの男の相手をするのか?」



家に返してくれーと訴えたら男の眉間に深く皺が刻まれた。え、なんで?何処に怒らせる要素があったの?こいつ沸点低すぎだろ

そりゃ帰ってトムさんの手当てしないと。酔っ払いのへべれけオヤジだが金づ、常連さんなのでフォローは当然しなければいけない。

というか誰のせいでフォローが必要になったと思ってるんだ!



「待てぇーい!その子を返せー!」



ふと町の方から声がしたと思ったらお鍋被った村長が武器を手にした町の人達を連れてやってきた。

これってまさか海賊に連れていかれた私を助けに皆来てくれたのだろうか?ヤバい泣きそう



「ついに本性を現したな海賊め!その子を離せ!」


「そうだそうだ!ナマエちゃんを返せ!」



わー、と押し寄せてくる町の人達を見て思わず涙ぐむ。余所者の私にここまでしてくれるなんてどんだけいい人達なのだろうこの町の人は。私もうこの町に骨埋めてもいいわ。一生元の世界に帰れなくてもいい。

だけどどさくさに紛れて『ナマエちゃん結婚してー!』『好きだー!付き合ってくれー!』などは聞かなかったことにしよう。ホント何いってんだこいつら?



「めんどくせえな」


「あの、本当に離してもらえませんか?私あの人達の所に帰りたいです」



そういうと男は途端眉を寄せてグッと何かを耐えるような表情になった。男の表情を見て何故か私は悲しい気持ちになった。

理由はわからない。だけどこんな気持ちは以前何処かで感じたことがある気がした。

男が私をじっと見つめてくる。何故だが男が泣き出しそうに感じた。



「それでも俺はもう手放さない。やっと見つけたんだ」



男の言葉とともにふわりと身体が宙に浮く。男が私を抱えたまま船に飛び乗った。身体能力が人体の限界を越えてませんか?と軽く突っ込みたい



「おい、船を出せ」


「アイアイキャプテン!」



男が白熊に指示を出す。え?船を出すだって?私がまだ乗っちゃってますよ?まさかこのまま出すつもり!?誘拐だー!助けてー!!



「わー!助けてーー!!」


「ナマエ!!」



訳もわからず船は出航してしまい私は海岸でざわめく町の人達に向い叫ぶことしかできなかった。

なんでこうなったの?


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