series(ブック)
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ローとの暮らしは順調だった。順調どころではない。順風円満だ。
ローはめちゃめちゃ優秀だった。
私はただのOLなのだがするとどうしても昼間は家を空けないといけない。まあ昼どころか定時にも帰れないブラック企業なのだけれど。
するとローが最初は私の買ってきた医学書を読んでいたのだが何か手伝いたいと言ってきた。
別にいいといったのだがお前が帰ってくるの遅くて暇だと言われぐぅの音も出なかったので洗濯物を取り込むのを頼んだ。
で、最初は帰ると洗濯物が畳んであるようになって次に洗濯物が仕舞われるようになって、
食器が洗われるようになって風呂が沸いているようになってローは立派な主夫となっていった。もう私ローがいないと生きられないかもしれん。
それで私もローを家に一人きりにさせるのが申し訳なくて定時に帰るようになった。仕事はお持ち帰りです。仕事持って帰ってるのバレると叱られるのでこのことは秘密で頼みます。そもそも定時で帰れないレベルの仕事させる会社がわるいんだけどね!
で、家で仕事する私の隣で医学書読むのが私達のスタンスだったんだが最近ローが私が仕事してる時膝に乗って医学書読むようになった。なにこれ可愛ゆす! もうローはうちの子になればいいと思います。
そんなこんなで平和な日常を過ごしていたんだがローの何気ない一言でアクションが起こる。
「そういえば今日俺の誕生日だな」
‥先に言えよ馬鹿!
思わずタイピングしていた手が止まった。ローの方を向くと淡々と医学書読んでたので聞き間違いかと思ったがそうでもないらしい。
「え、今日誕生日なの?」
「今日って10月6日だろ?ああ、そうだな」
「聞いてませんが?」
「言うことでもねえだろ」
面倒くさそうなローは置いといて時計を見る。11時06分。もう一時間もねえじゃねえか。
「馬鹿!何で言わないんだよ!」
膝の上に乗ってたローを下ろして立ち上がり財布取って出掛ける準備をする。
流石にケーキ屋さんはもう空いてないな。取り敢えずコンビニ行くか。知ってたらケーキ予約してたのに!
「なんだ慌てて。こんな時間から何処かいくのか?」
「そうだよ。ローも行くんだよ」
不思議そうに首を傾げるローを引き連れて近所のコンビニに向かう。
そしてデザートコーナーの前で足を止めローに好きな物を買うように促す。
「ほら、どれが食べたい?コンビニだからそこまでいいものではないかもしれないけどどれがいい?」
「甘いものは好きじゃねえ。まさか誕生日ケーキのつもりか?いらねぇよ。たかが誕生日くらいどうだっていいだろう。」
「却下!私が祝いたいの!因みに選ばないとここにあるデザート全種類網羅することになるぞ?」
そういうとローはしぶしぶどら焼きを手に取った。君は某猫型ロボットか。誕生日ケーキにどら焼きって渋い
どら焼きを買って家に帰る。あと10分くらいしかローの誕生日は残っていなかった。
「よし、取り敢えずローのバースデーパーティーを始めるか」
「いらねえっていってるだろが。なんでそこに拘るんだよ」
「当然だろ?誕生日は一年に一度しかない大切なイベントだ」
一年で一番我が儘になれる日なのに何故そんなに面倒くさがるんだ?誕生日を嫌がるのは20代からです。子どもは喜びなさい。私はこれ以上歳はとりたくないけど。
「今日はローはどんな我が儘を言ったって許される日なんだぞ?そんなに嫌がるなよ。何か欲しいものとかないのか?」
そういうとローは目を見開いてそして俯きボソボソと何かいい始めた。
お、この反応は何かほしいものがあるな。何だ?新しい医学書か?バッチコイ!でも出来れば5000円以内に押さえてください。
「‥何でもいいのか?」
「おお!何か欲しいものあるのか?かもーん!何でも言っていいよ。何が欲しいの?」
「今日一緒に寝て欲しい」
「へ?」
予想外のローの言葉に思わず間抜け顔を晒す。それって一緒に寝たいってこと?
ローの顔をじっと凝視するとぷいっと視線を反らし無理ならいいという。無理なわけないじゃないか!
普段私とローの寝床は同じで一緒のベッドで寝ているのだが私は仕事のためローより遅く寝て早く起きるのでローにとっては一緒に寝てるように感じないのだろう。
にしても一緒に寝たいなんて可愛いお願いだな。思わずニヤニヤするとローが不貞腐れた顔をした。
「うるせえ。なんでもねえ。やっぱいい」
「まだ何も言ってないよ?そんな怒らないでよロー」
「‥」
「ローに無視されると寂しいな。寂しいから今日は一緒に寝てくれない?一人じゃ寝られないよ」
「‥仕方ねえな。じゃあ一緒に寝てやるよ」
素直でない可愛いローを抱え上げて寝室までの道のりを歩く。
結局どら焼き食べてないな。明日食べよう。
パチッと電気を消して布団に潜り込む。もう12時は回っただろうか。
「ローお誕生日おめでとう」
返事は返ってこなかったが腕の中の温もりがぎゅっと身を固くしたのがわかった。照れ屋さんめ。
今ではもうローがいない生活なんて考えられないくらい私はローと過ごす日常が当たり前になってしまった。
でもローはいつか元の世界に帰るのだろう。それが寂しくて仕方ない。
この手の中の温もりが今日なくならないことを祈りつつ瞼と閉じる。
取り敢えず昨今の悩みは今放り出した仕事をどうするかだ。
明日上司に大目玉くらわないことを祈りたい。
(君と過ごす時間が愛おしかった)
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