成り代わり(JOJO&その他)

□インターハイ3日目 最後のゴール
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呼吸が苦しい。心臓が破裂しそうだ。顔を汗が滑り落ち限界を迎えた足がガクガクと震えているのがわかる。疲労はピークに達していた。

だけれどもペダルを回すこの足を止めることはできない。顔をあげると小さくなっている真波くんの背中が見えた。あと、距離にして1km。それで今年のインターハイが終わる。

結局この場に来ることになったのは私だった。金城さんは不調、鳴子くんは総北を箱学に追い付かせるために必死にこいでリタイア、巻島さんは東堂さんを押さえている。そして今泉くんは機材が壊れてしまいさっき別れた。

全て原作通りの展開だ。あとは私が勝てばすべて元のままだ。小野田坂道という存在がインターハイで総合優勝を果たす、それが正しい世界のあり方だ。

だけれども真波くんは遠すぎる。羽が生えたように軽やかに進んでいく真波くんを見上げながら縮まらない距離に私は絶望した。やっぱり私ではダメなんだ。偽物の小野田坂道では勝てないのだ。残り1km、真波くんの背中が見えたというのに小野田坂道みたいに心の底から嬉しそうに笑えやしない。

ふと、もういいんじゃないかという考えが頭を過る。初心者で女の子な私がインターハイのゴールが見える位置まで来れたんだ。これは凄いことだろう。小野田坂道ではない、私個人の成績だと考えるととてつもない快挙なのだ。

皆も許してくれるだろう。王者箱学のレギュラーと最後まで戦ったのだ。許してくれる。きっと2番目にゴールしたところで皆暖かく迎えてくれる。

だけれど足は止まらなかった。どんなに身体が辛く心が挫けそうになってもこの足だけは止まらなかった。何を思おうと、何を考えようと、身体は勝手にペダルをくるくる回す。

今までここに来るために出会った色々な人の顔が頭にチラついた。総北の皆、箱学の皆、御堂筋くん、そして、目の前を走る真波くん。

脳裏に真波くんの笑顔が浮かぶ。真波くんは笑いながらこちらに向かい手を振っていた。そうだ、やっぱり私は負けるわけにはいかない。諦めてはいかないんだ。

顔を上げて遠くを走る真波くんの背中を追いかける。絶対に、絶対に、追い抜いてやる。だって私が勝たなければ東真は成立しないんだよぉぉーー!!

東堂さんと真波くんをかけ算するならば当然真東となるだろう。CPの受け攻めはメンタルで決まるといっても過言ではない!自信満々で派手好きで女の子大好きな東堂さんだが実は真面目で優しい。押せば何だかんだで落ちてしまいそうな東堂さんと天然不思議ちゃんで魔王クラスのメンタル強度の真波くんではどちらに軍配が上がるか明らかであるだろう。東堂さんと真波くんのかけ算は真東なのだ。

後輩×先輩の下剋上カップリングも美味しいのだけれど箱学クライマーズに秘められた可能性はそれだけではないのだ!確かに真波はいつもニコニコしていてポジティブで隙がないのだが、しかし、このインターハイで負けることによりチームの一員としての責任と重圧を背負い、ただ坂を登れたらよいという真波くんが一皮剥けて真のイケメンへと成長を遂げるのだ!

その過程に密接に関わっていくのが東堂さんだ。インターハイの悔しさを共に分かち合いクライマーの先輩としてアドバイスをし、落ち込んでいる真波くんを慰め愛しく思いそして恋へと落ちていくのだ。ふぅー!東真!東真!

そう、東堂さんと真波くんの組み合わせを東真としていく重要なイベントがこのインターハイの最終局面なのだ。真波くんが負けることで、心に影を落とすことで二人の絆は深まっていくのだ。だから私は絶対に勝たなければならない。私の行動に1つのカップリングの進退が掛かっているのだ!

いや、東真だけではない!私が勝たなければ箱学のファンレースで今の2年生たちがあれほど奮い立たないだろう。「貴方たちは弱い!」って泉田さんが3年生たちを挑発することはないだろう。それはつまり泉新がなくなるってことだろ!いや、それだけではなく、黒荒、葦福といった2年×3年のカップリングが軒並み停滞していまうということだ。忠犬わんこよろしく3年を慕う2年たちも可愛いのだがカップリングの主導権を得るために闘争心を駆り立てられる2年の姿も見てみたい。

そう、この勝利にはありとあらゆる萌えが含まれているのだ!私は負けるわけにはいかないんだー!!

ふとペダルを回す足が軽くなった。さっきまではただがむしゃらに回していたというのにペダルと足がくっついてひとりでに回るというような感覚が自分の足にあった。

あれ?なんで急に軽くなったんだろう?そういえば鳴子くんがガス欠の身体は速くて軽いっていってたな。もうすぐ私の身体は限界なのだろうか?‥そっか。まあいいか。だってあとたったの500mだもん。これを走りきれればあとは朽ち果てたって構わないッ!



「うわあああっ!!!真波くんっ!!!」



全力でこぐ。こぐ。こぐ。その度に少しずつ真波くんが近付いてきた。豆粒だった距離が手を伸ばせば届く距離になって私は思わず笑ってしまう。もうすぐだ。もうすぐ、私のユートピアが近づいてくる。



「あと、ゴールまでもう少しだね坂道ちゃん。勝負する?」


「うん、しよう!」



そして隣に並んだ瞬間真波くんがにこりと笑ってそういった。真波くんの笑顔に心の底から力が沸き上がる。勝負しよう真波くん!そして私が勝つよ!東堂×真波のカップリングの成立を邪魔することは君だって許さないんだから!全国の腐ったお嬢様方のためにも私は勝ってみせる!

暑い、歓声が聞こえる。

ゴールまでの最後の直線、ダンシングするために立ち上がった私と真波くんは自分の持てる力の全てをゴールに叩き込んだのだった。


〜インターハイ3日目 最後のゴール〜


(坂道!よくやった!)


(小野田さん!僕はちゃんと見てたよ!凄かったね!)


(坂道ちゃん!おめでとう!)


(コクッ)


(あははは。T2に抱き締められるなんて幸せすぎて昇天しそう。あー、そういえば勝ったのはいいんだけど箱学のファンレースってどうやって見に行けばいいんだ?)


ーendー

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