少女A(その他)

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最初小野田くんが自転車競技部に入ると聞いた時私も即座に入部届を持って部室に突撃したのだがその時はロードバイクに乗ろうとは思っていなかった。常識的に考えて体育会系の部活に女子が入ったらマネージャーとなるのは当たり前のことだし寒咲さんに一緒にマネージャー業頑張ろうね!といわれて嫌な気はしなかった。裏方として小野田くんを精いっぱい支えてあげればいいと思ったしマネージャーって青春っぽくていいなーと思ったからちまちまとした雑用を頑張ってこなしていた。タオル用意したりドリンク用意したり洗濯したり買い出しいったりなどが主な仕事だが自転車という競技は道が競技場なのでグランド整備みたいな仕事もないし道具である自転車も基本的に各自に整備点検をさせるのでそこまで仕事は多くない。

小野田くんにドリンクを手渡しする役割を勝ち取りながら(勿論既製品のスポドリだ。料理スキルのない私の手作りドリンクを小野田くんに飲ませるなんてそんな非道なことしません)部内でもそこそこの地位を築いていったのだが小野田くんが巻島さんと個人練習に行ってから考えが変わる。

巻島さんは総北のエースクライマーで小野田くんとポジションが同じだし彼が頼りにするのもわからなくないが巻島さん!巻島さん!と親鳥のあとを追う雛のように小野田くんが巻島さんを慕うのははっきりいって面白くない。小野田くんの一番の近しいポジションは私である。赤い豆粒野郎が小野田くんの一番の親友はわいや!と言ってくるが断固として認めん。出会ったのは私の方が早かったし同じクラスで隣の席で休み時間の度に一緒にわいわい話している私の方がどうみても小野田くんと親しいに決まっている。あの赤い豆粒なんて敵ではない。そう、私の敵は巻島祐介ただ一人!

だが、こいつが中々厄介なのだ。せめて同学年であれば鳴子と同じように物理的距離が勝っているから何とかなったかもしれないが先輩というステータスは特殊でそれを有しているだけで尊敬を集めてしまう。日本は目上の人を敬う文化が根付いているからね。年功序列なんてもんはなくなってしまえ。

それからつらいのが巻島さんと小野田くんが自転車について話し合っている時に会話には入れないことだ。この傾斜の坂ではギアはこれくらいが、とか体力温存するためにあと20%くらい力抜くショとかいう感じで二人が話しているところをよく見るが日本語でおkと思わず言いたくなる。いや彼らの話題が自転車についてだということはわかるんだけどロードバイクに乗らない私には内容をさっぱり理解できないのだ。小野田くんがせっかく近くにいたとしても話には入れなくて疎外感を感じてしまう。マジつらたん。そして私が会話に参加できないことをいいことに小野田くんを独り占めする巻島さんが小憎たらしい。少女漫画のライバルのようにキィッと今泉のタオルを噛みしめてしまうくらい私は巻島さんに嫉妬していた。ちなみに今泉のタオルには歯形がついてしまったがどうせ洗濯したら元に戻るだろうし気にしないことにする。今泉がえっ、とめっちゃ驚いた顔していたことも見なかったことにしておこう。

この現状打開するために私はひとつの決意をする。彼らの話題がわからないというならばわかるようになればよいのだ。つまりどうすればいいのかというと私もロードバイクに乗ればいいということだ。前々からロードバイクってかっこいいなと思っていたことだしこれを機に私もロードバイクを始めよう。そしてロードバイクの技術と知識を身につけ小野田くんを巻島さんから奪還するのだ!

そうと決まれば行動あるのみ!家に帰って晩御飯の用意をしていたお母さんとリビングでテレビのチャンネルをいじりながら寛いでいるお父さんに向かい華麗なる土下座を披露しロードバイクを買ってほしいとおねだりした。高額なロードバイクに両親はちょっと渋ったのだが高校三年間自転車通学をするという条件のもと買ってもらえることになった。しかし、その代わり自転車通学で浮いたバス代はもらえないことになったのだが、まあ、仕方ない。青春はお金で買えないのだから。はぁ、ぐすっ。せっかくのおこずかいアップの戦略がなくなっちゃったよ。なんで今泉も巻島さんもあんなにぽんぽんロードバイクを買えるんだ?チッ、ボンボンどもめ。

そんなわけで寒咲さんの家に行き私に合ったロードバイクを選んでもらい自転車競技を始めることにした。金城さんに聞いたら寒咲さんとマネージャーとしての仕事について相談して折り合いをつけるのであれば練習に参加しても構わないという回答を貰った。というわけでマネージャー業はできるだけ昼休みに済ませてなるべく練習に参加できるようにする。私がロードバイクを始めることに寒咲さんは協力的で色々融通をきかせてくれた。やはり持つべきものは友達ですね!本当にありがとう!

というわけで私も自転車競技部の練習に参加することになったのだが当たり前だが初心者の私は自転車をこぐのが遅い。ギアを変えるタイミングなんてわからないしライン取りもどこを走ればいいのか見当もつかない、ダンシング?なにそれおいしいの状態だ。私にとって自転車とはペダルを回したら進む乗り物でしかない。ならば小野田くんみたいに高回転で足を回せるかといえばそうでもない。つまり私は凡人なのだ。

ぶっちゃけ自転車に乗れば眠れる才能が開花して一気にうまくなると期待してたからかなり落ち込んだ。私異世界トリップとか奇異な体験いっぱいしているのに別に才能あふれる主人公体質とかではなかったのね。ただの不幸体質だったのね。めっちゃ泣ける。私神様に嫌われすぎでしょ。トリップ特典くださいよ。

落ち込む私を小野田くんが慰めてくれたからその分は得したがこのままではいかん。私はなんとしてでも小野田くんの中の巻島さんの地位を奪取したいのだ!そのためにあきらめるわけにはいかん!

というわけで恥を忍んで今泉にうまくなるコツとやらを聞いてみた。(鳴子や巻島さんに聞くのはしゃくだし金城さんや田所さんには話しかけにくいから消去法)すると取り敢えず脚質を決めるために得意なことを探した方がいいといわれた。ふむ、得意なことか。現時点で平坦も登りもめちゃめちゃ遅くて何が得意かわからんな。取り敢えず私自身の能力からできそうなこと考えてみようか。ありがとうね今泉。それじゃあまた明日!

あのさ、タオルのことなんだけど、と今泉から私にとって後ろめたい話題が出たところでそそくさと退散する。タオルってあれだよね、私が噛みしめて歯形つけたタオルだよね。洗濯しようとしたらどっかいっちゃってヤバいなくした!?と焦って今泉に謝罪したら俺が持っているからそれは大丈夫だが、っていってたあのタオルのことだよね。はっきりいってお前の手に渡るくらいならなくなってた方がよかったのだが、あれか、おこなのですか?そりゃ自分のタオル勝手に噛まれたら怒るのは当然でしょうがまさか弁償しろというお話ですか?え、ちょっと待って。今泉家のタオルなんて絶対高いじゃないですか許してください。悪気はなかったんです。私小野田くんとの話題を確保するために2次元に貢ぐのに忙しくてお金全然ないんですよ。この間ラブヒメの一番くじでC賞のタオルがだぶったんでそれあげるからどうかご慈悲を!

取り敢えず今泉にはラブヒメのタオルをやることにして(これからヒメに汚染されてヲタ道を歩むことになるんだから大丈夫なはず)自分の得意なことについて考えることにする。

まず思い浮かぶことは物理攻撃が効かないように風化できるという点だが勿論却下だ。戦闘メインの世界だとこれ以上ないというほど有用な能力であるがスポコンの世界だと全くと言っていいほど役に立たない。半透明になってどうするんですか?夜道に後ろからバァといって相手を脅かすんですか?それいいなおい。今度鳴子相手にやってみよう。

次に便利なのが空を飛べるということだ。全人類の夢、タケコプターを使わずに空を飛べるということはとてつもなく凄いことだ。人間びっくりショーに出演することができるよ。もし就活に失敗したらタレントとして生きていこうかな。

だがこれも残念なことに自転車競技には役に立たない。空を飛べたとしてもETになるだけで残念ながら私には指と指を合わせてくれる友達はいないのでただ虚しいだけだ。あと何ができたかな。ぶっちゃけ異世界で何してたかといえば逃げ回っていたくらいしかしてないしなんか使えそうな能力思いつかないぞ?

なんてこった。私異世界であれだけいろんな体験してきたのに何一つ役立ちそうなものがないんだけどどうしたらいい?もっとまじめに生きてくればよかった。まあどうやって生きてもあれらの世界で自転車に役たちそうな技能を習得なんかできなかっただろうけどね。

落ち着け私。もう一度役に立ちそうな能力ないか考えてみよう。異世界で何してかといえば逃げてばかりだったな。自転車には逃げ切るスタイルと追いかけるスタイルがあるらしいがならまず私のスタイルは逃げで間違いないだろう。逃げることに関してはかなり自信があります。なんたって異世界で捕まったら死ぬというガチの命がけの逃走劇くり広げてきましたからね!逃げることに関しての心意気は誰にも負けませんよ!本当にひどい世界にばかりトリップさせられてたよな私。もう本当に二度と異世界トリップはしたくないです。

あとはやはり私の最大の能力といえばふうふうの実だろう。私は風を操ることのできる風人間なのだがこれって自転車競技においてなんか役に立つのかな。別に風になれたところでライン取りができるようになったり回転数があがったりするわけでもないけど。いやまて。確か初めて秋葉原で鳴子に出会った時にあいつ自転車は風に影響される!風は壁や!とか何とか言ってたぞ。まあ確かに追い風の時はこぎやすいし向かい風の時は進みにくいもんね。あれ?もしかして私すごいことに気づいたんじゃね?つまり風を利用すれば速く進むようになるんじゃね?

さすがに自然に吹いている向かい風を止ませたり追い風吹かせたりはできないが(海軍大将やエースを見る限り能力的にはできそうだがやったことないし無理だしできたとしてもそんな堂々と特異性を披露したくない。平穏無事に青春を謳歌するためにも珍獣扱いはごめんだ)薄く風を纏って向かい風の影響受けにくくするとか追い風の影響受けやすくするとかはできるんじゃね?若干ずるい気もするがこれも私の培った経験のひとつなので目をつぶってください。でもやっぱりばれないようにはしとこう。なんかこう、やっぱりちょっと罪悪感感じるので。

というわけで早速風を纏いながら自転車に乗ってみる。めっちゃ楽だった。スイスイ進みます。キタコレ。ついに私の時代が来たよ!うわっ、ヤバい、私天才だったかも。これならきっと巻島さんにも勝てるよ!待ってて小野田くん!君のもとへいざ参らん!

そんな感じで早速巻島さんに勝負を挑みに行ったのだがあっさり負けた。さすがは総北のエース、年季が違いますね。って、負けてられるか!悔しくて地面に転がりながらもだしてたけどこのまま負け犬よろしく遠吠えばかり吠えてられん!ってことでもうひと一回!もう一回!としつこいほど勝負を挑み続ける。諦めません、勝つまでは。

そして、峰が山コースを7周したところでついに巻島さんに勝った。巻島さんゼェゼェと息絶え絶えになっているがそんなことはしらん。例え体力が尽きたとしても勝ったもん勝ちなのだ。小野田くん!私勝ったよ!


「ハァハァ、ありえないッショ。なんであんだけ走ったのに息一つ切れてないんだ、」


「フハハハハッ!どうですか!ついに巻島さんを倒したぜいやっほーい!これで小野田くんの一番の座は私の物ですね、小野田くーん見てたー?」


「・・・抜くときに相手に気づかれない走りといい普段のテンションの高さといいお前俺の知り合いに似てるショ」


嬉しさのあまり小野田くんに飛びかかる私に巻島さんの言葉は届かない。自転車に乗っている時は気配を感じさせない技法、どこまでもしつこく追ってくる持久力、そして夜道に鳴子を後ろからバァと脅かしたことが決定打となり“お化け”という意味のあだ名がつくことになることを小野田くんにすごい!すごい!と褒められ浮かれていた私は知らなかった。


〜少女Aと車輪の世界2〜


(巻ちゃん!巻ちゃん!久しぶりだな!調子はどうだ?俺は絶好調だぞ!)

(あー、俺も悪くはないショ)

(どうした巻ちゃん!なんだか歯切れが悪いぞ?何か悩みがあるならば巻ちゃんのライバルであるこの山神に相談するといい!)

(はー、いや、なんつうかさ、俺の後輩にお前みたいな奴がいて扱いが難しいショ)

(何ィィィ――!!?この山神に似た奴がいるだと!?どんな美形だそいつは!くっ、俺に似た奴がいるなど女子の人気が二分されてしまう!巻ちゃん!その後輩とやらと女子の人気を賭けて勝負するぞ!)

(あ、いや、ミョウジは女だショ)

(は?)


ーendー

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