short(OP)
□傍観者の独白
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気付いたら真っ白な世界にいた。記憶も曖昧で自分が誰かもわからなかった。
右も左も白ばかり。ただ正面だけは違っていた。
目の前には大きなテレビのようなものがありなにやらよくわからない映像が流れていた。
どうすればいいのかわからなかった私はそのテレビの前に立ち茫然とその映像を見ていた。映像はとある海賊のお話を映していた。
それは麦わら帽子を被った男の子が船長でたくさんの仲間に囲まれて冒険をするお話。私はそのお話を知っていた。
ワンピースという物語だ。凄い人気のマンガで私も大好きなお話だ。私は映画でも見るような気持ちでその映像を見ていた。
ナミを助けてグランドラインに向かってアラバスタでビビを救ってそれは私の知っている物語そのものだった。
だけど空島にいった辺りから私の知らない登場人物が出てきた。女の子だった。
その子は特に強いってわけではないけと不思議な力を持っていて皆に好かれて一味の仲間になっていった。
一味みんなは笑い合っているが何故か女の子の顔には靄みたいなものがかかっていて顔はわからなかった。
それから麦わら海賊団はたくさんの冒険を続けた。
空島、W7、スリラパーク、そして頂上戦争。
ルフィの兄であるポートガス・D・エースが海賊王の血を引くということから処刑されることになりエースを救うために起こった海軍と白ひげ海賊団の全面戦争だ。
原作では確かエースも白ひげも死んだ。
私はただその画面を淡々と見ていた。
すると例のあの女の子が出てきた。勿論私の知るワンピースの物語にそんな展開はない。
何となく気になって目で追ってしまう。
その子はルフィと共に行動しエース目指して戦場を駆けていった。
ルフィがおじいさんを吹き飛ばしてかつての敵であったMr.3がエースの手錠を開けて
エースは救出された。戦場が沸いた。
でも私は知ってる。これで終わりではないことを
エースはこの後弟であるルフィを庇って死んでしまうことを
ふと見るとあの女の子は表情を硬くし笑っていなかった。それで何となく私は悟った。
あの子はこの後の結末を知ってるのだろうと
赤犬がエースを挑発した
エースの足が止まった
ルフィの手からエースのビブルカードが離れた
赤犬の拳が真っ赤に染まった
エースがルフィの前に立ちはだかった
そして、
『なんで、』
エースの呟きが聞こえた。
赤犬の拳はエースではなくあの女の子の身体を貫いた。
それは痛々しくてとても見られるものではなかったのに私はなぜか目が離せなかった。
瞬間世界が歪んだ
この白い世界が崩れ、目の前の画面もひび割れていく
全てが消え去ろうとした一瞬ルフィの姿が画面に映った。
こちらに手を伸ばし恐らくあの子を掴まえようというような手の動きだった。
消え行く世界にルフィの声が響いた
『ナマエ!!』
「え?」
あれ?どうして、
なんでルフィは私の名前を呼んだの?
その瞬間世界が弾けて私は意識を失った。
気が付くと白い部屋にいた。といってもあの画面しかない白の世界ではない。どこかの施設のような部屋だった。
ゆっくり首を動かすとベッド顔を伏せていた母がゆっくり顔を上げそしてその後ろで母を支えていた父がこちらを向いた。
涙を流し私を抱き締める母の腕の中で私はここが病院であることを理解した。
そして自分がどうしてここにいるかも思い出した。確か轢かれそうになった猫を助けようと思って道路に飛び出して、
じゃああの夢は何だったんだろう?私と同じ名前の女の子がワンピースの世界で冒険していたあの夢は
身体自体は軽症で意識が戻らなかっただけの私は精密検査をしてそして自宅から通院するという約束で退院した。
私は退院したその日にワンピースを全巻集め読み耽った。すると驚くことに内容が変わっていた。
あの女の子は出ていなかった。だけどエースは死んでいなかった。ルフィが助けたのだ。
念のため友達にも確認してみたところエースが死んだという事実はないということ。記憶障害?と心配されてしまった。
何が真実で何が夢なのかは私にはわからない。あの女の子が存在したのかもエースが死ぬ筈だったのかもしれないこともわからない。
‥あの女の子が私だったかもしれないことも全てわからないのだ。
でもその記憶に拘ることもないのかもしれない。結果としてエースは助かってるのだ。なら何も望むことなんてないのだ。
だけどふと私の胸に突き刺さる言葉がある。
『ナマエ!!』
ルフィが私の名前を叫んだことが何故か私の中に残った。
私には何もわからない。
私はただ白の世界で物語を見ていた傍観者だったのだ。
〜とある傍観者の独白〜
(いつまでも君の声が響いていた)
〜end〜