成り代わり(ブック)
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死後の世界の仕組みがどうなってるかなんて興味なかったが人間は死ぬと輪廻転生するらしい。
前世の記憶を持ちながらこの世界に産まれ落ちた俺はそう思った。
前世の記憶があるなんていったらキチガイ扱いされてしまうかもしれんが俺には冗談でなく前世の記憶がある。
前世の俺は平和な世界で平凡な人生を送って事故でわりと短命で人生を終了した。
それを思い出しながら昔はよかったな、なんて思ってしまうのは今の環境があまりよろしくないからだ。
俺の一族は殺し屋の家系らしくナイフを握れるようになった頃合いから戦闘を叩き込まれた。
人を殺すのは平和ぼけしていた俺にはキツかったがやらなければヤられると思うと案外できた。順応性が高いのかはたまた倫理観を前世に置いてきてしまったのか取り敢えず俺は殺し屋として生計を立てれている。
俺の一族は殺しにとても重視を置いた一族らしく俺の名前も殺し屋という意味の言葉が名付けられたしまた顔を隠すようためにマスクを着けて生活することを強いられた。
これは名が知られた俺の一族が暗殺の依頼を受けたときもなんなくこなせるようにと素顔を隠しているらしい。
つまりこの素顔を晒せる相手は暗殺のターゲットだけなのだ。1度つけてしまえば家族ですらその素顔を知ることはできない。
まあ仮面自体も良くできており食事も出来るし不快に感じたりしたことなどないのだが本当の意味で俺達の家族は仮面家族なのだなとちょっと笑った。
毎日淡々と仕事をこなす。
家族の中でも俺はずば抜けた才能を持っていたらしくどんどん任務の難易度は上がっていったが苦に感じることはなかった。
そんなある日のことだった。
いつも通り仕事を終わらせ帰ろうとした時俺を呼び止める赤い髪の男を見て俺は目を丸くした。
仕事風景を見られていたらしい。男は俺に仲間になれと言ってきた。
俺はこの赤い髪の男を知っていた。仕事上知っていたわけではない。何かこの男の評判を聞いていたわけでもない。
前世だ。俺は前世でこの男を見たことがあった。
前世で俺が好きだった書物に出てくる登場人物にこの男は出てきたのだ。
逆立った赤髪に口紅で色付けしたかのような赤い唇。金属を身に纏い操ることのできる能力を持つ男。そうだ名前は、
「俺の名前はユースタス・キャプテン・キッドだ。お前強いじゃねぇか。気に入った。俺の仲間になれ」
想像した名前と同じ単語が目の前の男の口から出て俺は確信する。この世界はあの物語の世界なのだ。
それと同時に1つ思い出したことがある。確かユースタス・キャプテン・キッドには腹心の部下がいた。
覆面を纏い殺人人形と呼ばれた殺し屋が彼の側にいた。
ふと、自分の仮面に触れる。
ああ、そういうことだったのか。
視線を上げてキッドを見上げるとまるで俺が断らないことを確信してるかのように余裕の笑みを浮かべた。彼も感じたのだろうか?
おそらくこれは運命だ
「俺の名前はキラーだ」
武器をしまいつかつかとキッドの元に向かい歩く。キッドの周りの人間は俺の接近にざわついたが当の本人は堂々としていた。
近づいて見るとキッドの方が少し背が高い。目線を合わせて手を差し出した。
「俺もあんたの仲間になりたい。よろしくなキッド」
差し出した手は直ぐに握り返された。そしてキッドはニヤリと笑った。
「ああ、これからお前は俺のものだ。期待しているぜ」
その人相の悪い面を見つめながらこくりと頷く。この男についていくということを当然だと感じる自分がいる。
神様の定めてしまったルートだがこんな男と出会えるなら他人に敷かれたレールを走るのも悪くないと思った。
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