series(ブック)
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「それ、いつもつけてるな。大切なものなのか?」
「ん?このピアスのこと?」
仕事から帰ってきて一息ついたときのこと、ローは私が今外したばかりのピアスを指差した。
それはパット見、白い小さな石がついててシンプルなデザインなのだが実は縁に小さなハート型の石もついていて中々可愛い作りになってる。私のお気に入りのピアスだ。
「そうだ、その白いピアスだ。いつも会社につけてっていってるだろ?大切な物なのか?」
「まあ愛着はあるかな。私の初給与で買ったピアスなんだ。気に入ってはいるよ」
そういうとローはあからさまほっと息を吐いた。私は頭クエッションマークを浮かべながらローの方を向いた。
「なに?ローはピアスに興味あるの?」
「‥別にどっちでもいい」
そういうとローはプイッと視線を反らして医学書を読み始めた。結局どっちだったんだ?まあ、ローならピアス似合うと思うよ。まだ早いけど。
大人になったらピアス買ってあげたいな〜なんて考えながら私は机の上にコロリと転がるピアスを指で弾いた。
大人って、そんな時間はこないのに。わかっていたはずなのに忘れていた。
お風呂から上がり衣服を身に付けようとしたときリビングから悲鳴が上がった。
ローのものだった。
なんだ!?強盗か!?
私は手に持っていった寝巻きを放り出し下着姿でリビングに飛び出した。
するとローがいきなり私の前に飛び出してきた。見るとローは透けていた。
「ええ!?何でロー透けてんの!?」
「ナマエ!ナマエ!」
ローは私に抱き付いて泣きじゃくる。何故ローが幽体化した!?いや、幽体化ではないか。触れるし。‥まさか、これって
「もしかしてロー元の世界に戻るのか?」
「っひっく、」
ローは何も言わずただ泣いていた。多分これは肯定、ローは元の世界に戻るんだ。
私はしゃがんで私に張り付いていたローを抱き締め返した。
元の世界に帰れればいいと思ってたがこんなにも早く別れが来るとは思ってなかった。あと、どうでもいいけどぶっちゃけローは実は異世界人ではなく無知な子ってのもちょっと思ってた。いや、現実的に異世界とか盲信できないよ。でもホントに異世界人だったんだね。ごめんロー
抱き締めてるはずなのに感覚が無くなっていく。消えていくローに私は何も出来なかった。
「ロー、向こうに戻っても元気でな。それと早く寝る習慣つけろよ。その隈とれなくなっちゃうぞ?」
「いやだ!帰りたくねぇ!!」
絞り出すようなローの声に私の涙腺も弛む。私だってこんなに早く別れたくなかった。涙が頬を伝った瞬間唇に温もりを感じた。
「好きだナマエ。俺はナマエから離れたくねえ!」
下を向けばローが私を見上げ目尻に涙を貯めながら訴えてくる。いきなり愛の告白だと?しかも然り気無く唇奪われたぞ?このマセガキめ。これ私がショタコンになるの?
あまりの出来事にびっくりして涙が引っ込んだ。マジで?私のこと好きなのロー。あれか、初恋が幼稚園の先生ってのと同じか。でも嬉しいぞ
「私もローのこと好きだよ」
「じゃあ両想いだな。ナマエ、俺は必ず戻ってくる!だから絶対浮気するなよ!」
そうローは吠えるように叫んだ。然り気無く重くないか?いや、これでローと会うのも最後だ。私も伝えたいことは伝えとこう。
私は視線を少し下げてローのおでこにチュッとキスをする。
そしてまだ泣きながら私にしがみつくローの頭を優しく撫でた。
「ロー、今までありがとう。私ローと会えてよかったよ」
「ああ、俺もだ。ナマエ、離れたくない」
お互い固く固く抱き合うがローはどんどん消えていった。もう別れはとめられない。
ローが手を握ってというので私はローの手を握り締めた。
「絶対また会いに来る」
「うん」
「大人になったら迎えに来るから待ってろ。ナマエ、愛してる」
そういうとローは消えていった。私は1人静寂の中に残された。
凄い熱烈な愛の告白をもらっちゃったな。いままでの人生で一番響いた。もう会えないかもしれないけど。
しばらくぼーとその場に座り込んでいたが自分が下着姿なことに気付き服を着る。随分と間抜けな姿だったんだな私。端からみた笑えてただろう。
服を着てふと机の上を見るとあのお気に入りのピアスが片方無くなっていた。机の下にでも落ちたのかと思って周りを探したが何処にもなかった。
無くなったタイミングがローと同じだったからなんとなくあのピアスはもう見つからない気がして私は残った方のピアスをアクセサリーケースに直した。もう使うことはないだろう。
ローがいなくなったこの部屋が広く感じた。ああ、寂しいな。
熱烈な告白も頂いたしとてもじゃないが新しく彼氏など作ろうという気になれない。まあ作ろうと思ってできるものでもないけど。
ローとの生活は楽しかった。もう会えないのだろうか。ローは迎えに来るって言ってたけどどうだろ。
まあ向こうが迎えに来る頃にはこちらはおばさんだ。きっと目が覚めて向こうで可愛い彼女作るだろう。期待はしないでおく。
それに私はショタコンでもないので。
私と異世界人ローとの奇妙な生活はこうして終わりを迎えたわけだが残ったのは寂しさだけだった。
誰もいないベッドで寂しく1人で眠る。一緒に寝て欲しいと甘えてきた可愛い子どもはもう何処にもいなかった。
〜君が消えた世界で生きる私〜
(もう一度会いたいなって、ふと思った)
ーendー