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□自覚無自覚じれったい
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今朝からナツの様子がおかしい。

待ちに待った大好きな作家の最新刊を読み終えたルーシィはパタンと両手で本を閉じ、ハァ、と頭を項垂れた。
チラリと視線を横に向ければ、ナツは何をするでもなくテーブルに肩肘を付けて頬杖を突いて体ごと横を向いてルーシィを見つめてきている。
これ見よがしにルーシィは半眼でナツを見ながら再び溜め息をつくが、相手は二、三回瞬きを繰り返すだけ。


*〜*〜*


いつもより早くギルドに顔を出したルーシィは後程来るであろう親友のレビィと昨日出たばかりの本の話題で盛り上がろうと話題の本を片手に意気揚々とテーブル席に座った。
流石に早過ぎたらしい、ギルドの様相は人もまばらでとても静かだ。
恐らく朝一番に顔を出していたミラージェーンと軽く挨拶を交わし、それでもレビィが来るのが待ち遠しいルーシィはそわそわと体を揺らす。

昨日その本が出た時点でルーシィとレビィはギルドを飛び出し書店に並んで一緒に購入し、互いに花咲く笑顔を振り撒きながら、明日はいっぱい喋ろうね、と約束を交わした。そのままルーシィは自室に籠り読み耽り、そして朝を迎えた次第である。
眠い筈なのだがそれでも眠気が吹っ飛んでしまう程その内容はとても面白く、ルーシィは早くレビィと語り合いたいと朝日が差すギルドまでの道のりを足取り軽く歩いて行った。

いつもならばあっという間に感じる早い時間の流れが今日に限ってはとても遅く感じる。ルーシィはもどかしそうにキョロキョロと辺りを見回すがやはりレビィの姿を捉える事が出来ない。
仕方ないか、とルーシィは息を短く吐き出し、レビィが来るまでと本を開いた。

暫く読み耽っていたのだが、足音一つと影が差し掛かり、ルーシィは待ってましたと瞳を輝かせながら顔を上げた。
そこにいたのは腕を組み仁王立ちしてルーシィを見下ろすナツの姿であった。トレードマークの白いマフラーに顔下半分埋めていて、いつものハッキリとした表情が読み取れない。
ルーシィは高揚していた気分を下げて、何よ、と少し不貞腐れながらナツに半眼を向けた。

「いあ、何でもねぇ」

用事が無いならばクエストを探すなり仲間に喧嘩を売るなりすれば良いだろうに、何故かナツはルーシィが座っている横長の椅子を跨いで真横に座った。
ルーシィは訝しるように眉をひそめると、何でもねぇよ、と返しつつもナツは頬杖を突いてじっと見つめてきた。

「だから、何よ」
「だから何でもねぇって。気にすんな」

頬杖を突いていない手をヒラヒラと振ってくるもナツは一向にルーシィから視線を外す事は無かった。

「あっそ」

相手の真意が全く読めずもいつものおちょくりかとルーシィは合点し、じゃあ好きにするわ、と本に視線を戻した。


*〜*〜*


何度読んでも面白い。
ルーシィは満足げに息を吐き出し顔を上げて時計を確認すると、時刻は10時を過ぎていた。
改めてギルド内を見回すもどうしてもレビィの姿を捉えることが出来ない。
ほぼ毎日、しかも滅多な事では約束を蔑ろにはしないはずの親友にルーシィは流石に違和感を覚えた。
不意に視線を感じて横を振り向けば、あれから微動だにしなかったのだろうか、相変わらずナツは今朝と全く同じ体勢でルーシィを見つめていた。

「レビィならさっきガジルの奴が持ってったぞ」
「……やっぱり」

そう言えば親友の悲鳴が聞こえていたような。
案外読書に耽ってしまっていたらしい、親友が連れ去られてしまった事に気付け無かった自分の不甲斐なさにルーシィは溜め息をついてパタンと本を両手で閉じた。

それにしても、ナツが異常なまでに大人しい。
ルーシィは勘繰るように半眼を向けるも、ナツは不思議そうに瞬いて小首を傾げる。

「どうした?」
「別に。何でもないわよ」

先程と立場が逆になってしまった。
ルーシィは痛む頭に手を添えて再び溜め息をつき、そう言えば珍しいわね、とナツに目を向けた。

「今日は大人しいじゃない」
「別に毎日暴れまわってねえだろ。失礼な」
「けど、騒がしいじゃない」
「ぬぐっ……ルーシィは、落ち着いてた方が良いのか?」
「ん?そりゃあねぇ。んで、たまに騒いだりとかが理想かなあってな感じかな」
「ふぅん」

ナツはつまらなさそうに鼻から息を吐き出し眉をひそめた。
そんな様子のナツを知ってか知らずか、ルーシィは大きく伸びをして強張った体を解して大きな息を吐き出す。

「喉、渇かない?」
「ん?おう」
「そ。んじゃあんたはファイアドリンクで良いわよね?」
「?」
「奢りじゃないわよっ。ちゃんとお代は自分で払いなさい」

それでも相手の真意を図れずナツが大きく首を傾げると、ルーシィは半眼を向けながら読み終わった本を脇に置いた。

「レビィちゃんが連れてかれたのにそれを止めなかった罰。お茶くらい付き合いなさい。どうせ暇なんでしょ?」
「?おう。ってか別に暇だったら仕事に行けば良いじゃねえか」
「あんたはそれで良いんだろうけど、あたしは今日レビィちゃんと約束してたからそんな気分じゃないの」

乙女心が分からないなんてまだまだお子様ね、とルーシィは鼻で笑い通り掛かったミラジェーンに元気良く手を上げて飲み物を注文した。
ルーシィの言い分にナツは不機嫌そうに眉間に皺を刻むもただそれだけに留まる。
いつもならば皮肉とからかいを交ぜて裏表の無い発言をしてくるはずなのに今日はそれが無く、しかもえらく酷く大人しい。

「ねえ、何か変な物でも拾って食べたの?」
「いあ。ミラの飯しか食ってねえ。昨日はルーシィの飯も食ってねえし」
「……次から作ってあげないわよ」
「いあ、だからそうじゃねえって」

ルーシィは自分の料理が変な物と分類されてご立腹のようだが、どうやらナツの真意は伝わっていないらしい。
それでもナツは眉尻を下げるばかりで反論はしてこない。
それが却って違和感となりルーシィの胸の中でもやもやとした物が燻った。
たまらずどういう了見かと問いただそうと口を開くも、それよりも先にナツが口を開いた。

「何よ」
「いあ、面白ぇんか?それ」

この少年にしては珍しく自らルーシィが読んでいる本に興味を示した。
ルーシィは一瞬呆気に取られるも途端に瞳を輝かせて、ホンットに面白いのよ!とナツに迫った。
その書籍について余程話し相手が欲しかったと見受けられる。
ナツは少したじろぎつつも、だったらどういう話か教えてくれ、とあくまでも表面上はいつも通りというようにルーシィを後ろから抱え込むように一旦立ち上がって席を移動した。
ルーシィと椅子の間に体を割り込ませ脚の間に相手を座らせる格好を取り、そのままナツは細い腰に両腕を回して白い肩口に顎を置く。
途端にギルド中から歯軋りの音が聞こえ始めるが、ナツとルーシィ双方共それに気付いてはいない。

ルーシィはいつもの事だと、そして話相手が欲しくてその体勢には特に言及はしなかった。
ナツも天然なのかわざとなのか表情の読めない仏頂面のままスリスリとルーシィの頬に己の頬を擦り付けた。
それでもルーシィは特に気にせず瞳を輝かせながら脇に寄せた本を引き寄せ丁寧にナツに説明し始めた。
ナツも今回は珍しく真面目に話を聞いている。時折文を指差して質問をすれば、より一層瞳を輝かせてルーシィも文に指を添えながら熱弁をしだす。そして時折それで指が触れ合うもルーシィは特段気にする様子もない。

ギルドに響き渡る歯軋りが尋常ではないくらいに鳴っているのだが気付いていない二人に対し最早誰かが暴れ出してもおかしくはない雰囲気の中、ルーシィのテンションはヒートアップしナツが最も質問して欲しかった場面を質問したところで、その距離感を忘れて相手に振り向いてしまった。

途端に唇で触れる意外と柔らかい感触。
まさしくそれは、ルーシィからナツの頬にキスをしている格好になり。

ギルド全体から阿鼻叫喚が鳴り響いた。

顔を真っ赤にしてナツとルーシィが距離を取るよりも先に、誰かがぶん投げてきたベンチがナツの背中に直撃する。
突然の衝撃にナツは呆気なくバランスを崩して前方に倒れ込み、未だ近くにいたルーシィを押し倒してしまう格好になる。
寸止めで何とか体勢を押し留めるも、再度デッキチェアを背中にぶつけられてはその重みにナツは体を倒してしまい。

むちゅり。

と、柔らかい感触を互いの唇で受け止めた。

これにはギルド全体は一瞬静まり返り、ナツはゆっくりと真っ赤に染まった顔を起こして。
もう一度、と顔をルーシィに近付けた。





そう美味しい展開をさせてなるものかと仲間達は二人を引き剥がすとナツを袋叩きにしだし、ルーシィに関しては丁度ギルドに顔を出したリサーナが巻き込まれそうになっているのを発見し早急にカウンターまで避難させた。
真っ赤な顔を両手で覆い隠して頭から湯気を出しているルーシィの背中を優しく擦りながらリサーナは事の顛末を尋ねた。

ギルドは今大乱闘中である。

ルーシィはチラリと喧嘩真っ最中の光景に視線を向け、恐らくナツの姿を捉えたのだろう、再び恥ずかしげに俯いた。

「大丈夫?」
「うん……」
「無理して言わなくていいから、ね?」
「うん……あの、ね」

恐る恐る窺いながら上げる顔はまさに恋する乙女そのもので。

「ナツに……ちゅーしちゃって、ちゅーされた……」

事故なんだけど、と再び俯き付け加えるその耳は本当に真っ赤で。

「……もう、ルーシィってば可愛いなぁ」

リサーナは思わず胸を高鳴らせてルーシィに抱き着いて柔らかい金色の髪に頬擦りをした。

未だに真っ赤な顔のナツは劣勢に立たされていた。












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トコヤ様より、誕生日祝いに頂きました!…もうね、あまりにもどストライクすぎて読み終わった途端大気圏まで吹っ飛ばされましたよねまじでっ。なにこの二人!無自覚すぎるでしょ!公衆の面前で無自覚にイチャイチャしすぎでしょ!!しかも三回も…(どころじゃないかもだけど)ちゅっちゅちゅっちゅと…っ!!!(いや、私がそうリクエストさせていただいたんですけどね?)しかもしかも、そこはかとなくガジレビも登場してて…!それも萌え!!随時萌え!!!終始萌え萌えさせられて動悸息切れがやばかったですがそれと同時にとても幸せでした!(歓喜)
こんなに素敵な誕生祝いを書いてくださったトコヤさん!本当にありがとうございました!!


※無断転載・保存・印刷はしないようお願いいたします。(giftページ上部にも記載してありますが一応こちらにも記載させていただきます)


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