gift

□見上げてごらん
1ページ/1ページ



「え、今日の夜?」

隣に座っているナツとハッピーが、何故かとてもにこにこしている。良いことでもあったのか、いつもより二人の表情が明るく見えた。ルーシィは彼らからの問いに、恐る恐る答える。

「まあ・・・うん、暇だけど」
「そっか!暇か!」
「やっぱり暇なんだね、ルーシィ!」
「ちょっと、やっぱりってどういう意味?」

ルーシィの返事を聞いて嬉しそうにハイタッチする二人に、首を傾げる。
いつものようにカウンター席へ座り、ミラジェーンと何気なく話をしていると、ナツとハッピーが隣にやってきた。おはよう、と挨拶しようと口を開いたのだが、言葉が出るより先にナツとハッピーが「今日の夜、暇?」と訊ねてきた。突然の問いかけに一体何だろうと不思議に思ったが、今夜はとくに用事もないし、暇と言えば暇だ。だから頷いた、けど。
ナツは椅子から下り、笑顔で振り返ってルーシィに告げる。

「じゃあ夜迎えに行くから、ちゃんと部屋で待ってろよ」
「え?」

そう言い残すと、ドタバタと大きな足音をたててギルドから出て行ってしまった。彼のあとを追いかけて、ハッピーも翼で空を飛んでいく。

「・・・何なの?」

夜、迎えに行く?ちゃんと待ってろ?

ナツの言葉の意味がよく分からず、ルーシィは頭に疑問符を浮かべて彼らが出て行き開けっ放しになったギルドの扉をしばらく見つめていた。

そしてその夜、ルーシィは約束通り部屋の中にいた。
迎えに来ると言っていた彼の言葉が気になり、ソワソワしながら窓を見る。
いつ窓が開くのか。いつ窓からやって来るのか。あ、もしかしたら今日はドアからかもしれない。ダメだ、全然落ち着かない。

「・・・何時に来るとか言ってなかったもんなぁ」

迎えに行くから、部屋で待ってろ。それだけ。時間も理由も、詳しいことは何一つ教えてくれなかった。

お腹空いたし・・・ご飯、食べようかな。

ルーシィは座っていた椅子から立ち上がってキッチンへ移動し、簡単にだが夕食の準備に取りかかる。
ひょっとしたら、作ってる間に来るかもしれない。そう思うと、料理に集中できなくてつい窓やドアの方を見てしまう。
結局、夕食を作り終えても彼らはやって来なかった。一人で静かな部屋の真ん中で黙々と食べ、その合間にも窓をちらちら。しかし、彼らが来る気配は無い。

・・・お風呂に入ってれば、きっと来るわよね。

デリカシーの無いあいつらのこと。人がお風呂に入っていてもお構い無しにカーテンを開けてくる。
いつものように大好きなお風呂にのんびりと浸かるが、やはり部屋の様子が気になって仕方ない。
ルーシィはお風呂から上がり、ひょこっとカーテンの隙間から顔を覗かせ部屋の様子を確認するが、そこには誰もいなかった。
結局そのあと、書きかけの小説を書いても、歯磨きをしても、寝る準備をしても・・・ナツとハッピーは来なかった。時計を見ると、そろそろ日付が変わってしまうくらい遅くなっていて。

「何よ、もうっ」

待ってろって言ったくせに。迎えに来るって言ったくせに。
嘘をつかれたのだろうか。ルーシィは開くことのない窓を睨み、部屋の明かりを消して毛布の中に潜り込む。

待ってらんない、寝てやるんだから。明日、文句言ってやる。

窓に背を向けて、ルーシィは静かに目を閉じた。



***


ふわりと、風が顔に当たる。なんだかくすぐったくて、少し肌寒くて。ゆっくりと目を開けると、カーテンが揺れていることに気付く。

「ルーシィ」

低く小さな声で、名前を呼ばれた。ルーシィはその声に驚いて身体を起こし、揺れているカーテンの向こうを見つめる。いつの間にか開いていた窓から、白いマフラーを風に揺らした桜髪の少年が顔を覗かせた。

「ナツ!」

その声を聞くと、ナツは窓枠に手をついてしゃがみ込む。彼の背には白い羽が見えた。きっとハッピーが掴んでいるのだろう。

「何寝てんだよ、ほら、起きろ」
「なっ・・・!」

少し寝ぼけた顔のルーシィを見て、呆れた声を発するナツに、ルーシィは目を吊り上げる。

「一体今何時だと思ってんの!?」
「えーと、2時」
「冷静に答えてんじゃないわよ!何なのよ、こんな時間に!」
「迎えに行くから待ってろって言ったろ」

あんた来るの遅いのよ!!

思わず、叫びそうになる。
ぶぅ、と膨れっ面になっているルーシィの手を掴み、自分の前へ引いた。

「おし!じゃあ行くぞ!」
「い、行くってどこによ?」
「外!」

笑顔で言う彼にルーシィは、こんな時間に!?と声を上げる。「寒いからなんか着ろよ」と言われるが、なんで今、この時間帯に外に出なければいけないのか意味が分からない。
早く早く、と急かすナツとハッピーに、仕方なく椅子にかかっていたカーディガンを羽織りベッドへ戻ると、ナツは自分の首に巻いていたマフラーを外し、ルーシィの顔にぐるぐると巻き付ける。

「えっ、何すんの!?」

突然視界が真っ暗になり戸惑っていると、急に身体がふわりと宙に浮く。
足と背中に力強く、温かい腕がまわった。ルーシィは今の自分が、彼によりお姫様抱っこされていることに気付く。

ななな・・・!?

「ちょっ、な、何なの!?」
「ハッピー、行けるか?」
「あい!頑張ってみるよ!」
「ってシカトすんな!」

マフラーを耳が隠れるまでぐるぐる巻かれたため、二人の会話が少し遠く聞こえる。外そうとすると、「オレがいいって言うまでそのままな」と言うナツの声が降ってくる。
突然のことすぎて頭がついていかない。

「しっかりつかまってろよ」
「えっ、きゃあ!」

ぶわっと風が全身にぶつかる。マフラーのおかげで真っ暗で何も見えないが、今空を飛んでいることが分かる。普段一人が限界だと言うハッピーが、なんとか頑張ってくれているようだ。

しばらく空を飛んでいると、さっきよりもハッピーのスピードがダウンする。「着いたぞ」というナツの言葉を聞き、ゆっくりと地面に下りていく。ナツの腕から解放され、顔に巻かれていたマフラーが外されようやく外の景色が見えた。しかし目の前にあるのはたくさんに木々ばかり。

ここ、どこ?

二人に近くにあった大きな岩まで手を引かれ、その上に三人で一緒に腰を下ろす。未だ状況が理解できないルーシィに、ナツが突然空を指差した。


「・・・わあ!」


顔を上げると、どこまでも広がる夜空に、きらきらと眩しい星が光り一斉に流れ落ちてきていた。一つや二つじゃない。もう、数えきれないくらいたくさん。この夜空一体の星々が。降ってくる。流星群だ。
生まれて初めてみるこの星空に思わず見惚れてしまい、目が離せなくなる。

「すげーだろ。ここ、一番星が綺麗に見えるとこなんだ」
「この流星群のこと街の人が教えてくれてさ。オイラたち、ルーシィをびっくりさせようと思ったんだよ」

二人は鼻高々となり、嬉しそうに顔を見合わせる。
思ってもみなかったサプライズ。感動のあまり何も言葉が出ない。

「ナツがね、どうしてもルーシィに見せたいってうるさくて」
「なっ・・・!ハッピーだって見せたいって言っただろ!」
「オイラはルーシィの部屋でも十分見えるよって言ったんだ。でもナツはどうしてもここで見せたいって。オイラ、二人を持って飛ぶのすごい疲れた」

ハッピーの言葉にナツは声を詰まらせ、くるりと後ろを向き、俯いてぼそぼそと呟く。

「だって・・・どうせ見るなら、一番綺麗に見えるとこがいいじゃねえか」

いじけたようなその口調がなんだか可愛くて、ルーシィはくすりと微笑んだ。隣に座っているハッピーの頭にぽんっと手を置き、優しく撫でる。

「ありがとね、ハッピー」
「あい!」

そして、後ろを向いて未だ顔を上げないナツの背に、ルーシィは自分の背を預けた。背後から「なんだよ」と言うナツの声が聞こえる。

「俯いてないで星を見て。せっかくこんなに綺麗な流星群なのに、見ないともったいないわよ?」

その言葉に、ナツもゆっくりと顔を上げる。


不意に、岩の上に置いていた右手が彼の左手とぶつかった。冷えた自分の手とは対照的に、彼の手は温かい。そう、ナツははいつだって温かいの。
優しく、ぎゅっと。自分より一回り大きな彼の手が、右手を包み込む。

預けた背中が、握られた右手が、温かい。このままずっとこうしていたら、きっと離れがたくなる。
だけどこの星々をまだ見ていたい。一人でじゃなく、みんなと。ナツと、ハッピーと。

「ナツ、ありがとう」

優しく手を握り返して、星を眺める。綺麗。今日のこと、三人で一緒に星空を見たこと、きっと一生忘れない。

まるで手から想いが伝わったかのように、後ろでごくごく小さく、「オレも」と声が聞こえた。












---------------------------
翡翠様より、誕生日祝いに頂きました!星を見に真夜中にお出かけするナツルハピ、というロマンチック且つとっても可愛らしいお話に終始ほんわかさせられまくりです〜!もうね、今か今かとナツの迎えを待つルーシィも可愛いし、わざわざルーシィを現地に連れて来て星を見せたかったナツも可愛くて……、っくぅ〜〜!!幸せで胸がいっぱいになりましたね!!こんな素敵な誕生祝いを書いてくださった翡翠さん!本当にありがとうございました!!


※無断転載・保存・印刷はしないようお願いいたします。(giftページ上部にも記載してありますが一応こちらにも記載させていただきます)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ