gift

□CANDY GIRL
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「これ、あげる」

ある日の夕食後。ルーシィは何の前触れもなく、ナツに小さな包みを差し出した。可愛らしい頬が、ピンク色に染まっている。
とりあえず「おお、サンキュ」と受け取ったものの、彼には全く彼女からプレゼントをもらう心当たりがなかった。はて、今日は何かの日だったろうか。
ナツが思いっきり首を傾げていると、ルーシィがおもむろに口を開いた。

「えと、中身、チョコレートなの。もうすぐバレンタインだから……」
「バレンタインて、まだ先じゃなかったか」
「うん、本当は14日なんだけど」

尚更ナツは意味が分からなかった。今日は二月に入ってまだ三日目だ、なのに何故このタイミングで。せっかく恋人になって初めてのバレンタインデーなのに、フライングにも程がある。
彼の疑問に、ルーシィは淡々と答えた。

「今年もね、ギルドは東洋風でいくんだって」
「東洋風?」
「女の子から男の子にチョコを渡すのよ」
「ふーん」

そういえば去年もそうだった気がする。本来は大切な人に贈り物をする日だが、恋人のいない男性陣を不憫に思ったミラジェーンが、東洋で流行っているという風習をギルド内に取り入れたのだ。確か突然ギルドの女子メンバーに大量のチョコレートを渡され、よく分からないながらに全部ありがたく平らげたような覚えがある。
早速包みを開けながら、ナツは何とはなしに呟いた。

「そんなら今年も別に14日で良かったのに」
「……それじゃあ、他の女の子のと混ざっちゃうでしょ」
「去年もそうだっただろうが」

去年はルーシィがハート型のチョコレートをくれて、すごく嬉しかった。他の男達には星型だったのに、自分だけが特別なんだと思えた。
しかし、彼女の答えは違っていた。

「だって去年は義理チョコにかこつけてナツにも普通に渡せて満足だったけど、今年は他の子と一緒くたになったら嫌だもん……」

ルーシィは拗ねたように呟いた。そこには暗に、“恋人として特別扱いして欲しい”というニュアンスが含まれている。彼に好かれている自信がないのか、ルーシィは14日に渡すと自分のチョコレートが他の女の子の物と十把一絡げにされると不安に思っているらしい。

(んなわけねえのに。他の女なんてどうでもいい、オレが選んだのは“ルーシィ”なのに――)

例えたくさん義理チョコをもらったとしても、ルーシィのチョコは自分にとって何より特別なものになるはずだ。他の誰でもない、“ルーシィ”がくれたものだから。

(他の女のは受け取るなって、言えばいいのに)

そこで束縛したりしないのが、彼女の奥ゆかしさなのだろう。ルーシィには悪いが、彼女のヤキモチが垣間見えてくすぐったい。
もらった箱を開けると、今年も可愛らしいハート型のチョコレートが入っていた。去年と違うのは、表面に書かれた大きな<I LOVE YOU>の文字――ナツは頬を緩め、くしゃりと彼女の頭を撫でた。

「ありがとな。――別に、他の奴らのことは気にすることねえのに」
「でも」
「大体あいつら、今年もくれるか分かんねえだろ。ルーシィ、いるし」
「え…」

明からさまな“特別”宣言に、ルーシィがぽすん、と赤くなった。いい反応に、ナツは思わず饒舌になる。

「つか、今日もらったら……バレンタインじゃなくなっちまうだろ」

これはこれで嬉しいが、恋人の日に恋人から何ももらえないのは悲しい。遠回しにそう伝えると、ルーシィはブンブンと首を振った。

「ううん、バレンタイン当日にもちゃんと考えてるわよ!」
「ほんとか?」
「もちろん」
「何だ、良かった。――まさか、またチョコじゃねえだろうな」
「んーん、当日は西洋風にいくもん。ナツにしかあげられないもの…あげる」

彼女は目を伏せて恥ずかしそうにそう言った。恋人である自分にしかあげられないものとは――否が応にも期待が高まる。
つん、と服を引っ張って、ルーシィが言い添えた。

「だからね、これはフライングで“東洋風のバレンタイン”なの」
「? おう。だからチョコレートなんだろ?」
「…それだけじゃないもん」
「へ?」

不思議そうな表情のナツを、ルーシィは一度深呼吸をして潤んだ瞳で見上げた。声が、震えている。

「言っとくけど、それ――義理じゃないから、ね」
「あ?」
「本命チョコ、だから」

ナツの脳内に、先ほど聞いたばかりの声が、蘇る。
――去年は義理チョコにかこつけてナツにも普通に渡せて満足だったけど
――今年は他の子と一緒くたになったら嫌だもん……

(それって、好きってこと…だよな)

「……おう」

ナツがこくんと頷くと、ルーシィは嬉しそうにはにかんだ。
その愛らしさに、何だか無性に抱きしめたくなって。

「おまえは何が欲しい?」

自然と口をついて出た言葉に、ルーシィは驚いたように声を弾ませた。

「え――ナツもあたしに何かくれるの?」
「だってバレンタインて本来そういう日だろ」
「で、でも今年は東洋風にいくって」
「ギルドはな」

オレ達二人は普通にいけばいいだろ、恋人同士なんだから。
そう言外に匂わすと、彼女は赤くなって俯き、モジモジと言い募った。

「あ、あのね、じゃああたし、14日のナツの時間が欲しい。バレンタインの日に、ナツを独り占めしたいの」
「そんだけでいいのか?」

彼はキョトンとして訊き返した。
元よりその日を彼女と一緒に過ごす予定だったナツには、拍子抜けにも拍子抜けすぎる返答だ。もっと図々しく特別感のある物をねだってもいいのに―――例えば、指輪とか。
しかしそう考えた彼とは対照的に、ルーシィは、「ええっ、『そんだけ』って! 十分すごいことでしょ、だってバレンタインなのよ?」と言い切った。

「あたしはナツが14日に一緒にいてくれるだけで幸せなの。だから、それがいいの」

そう言って、ふんわりと花開くように微笑む。
二人でいることが何よりのプレゼントだ――そうキッパリ断言されると、ナツはもう彼女が可愛くて思い切り独占したくて仕方なくなった。色付いた頬に、そっと手を伸ばす。

「……分かった。じゃあこのチョコにも特別感くれよ」
「え…特別感って」

本命チョコってだけじゃダメなの、と大きな目をパチクリとさせるルーシィに。
ナツは親指でゆっくりと柔らかい唇をなぞり、ハッキリ言い放った。

「ルーシィが、食わせてくれ」
「え……っ」

かあ、と彼女が真っ赤に染まる。押しに弱い彼女を、ナツは不敵な表情で更に責め立てた。

「いいだろ、バレンタインなんだから」
「そ、そうだけど」

額を寄せて顔を覗きこむと、ルーシィは「ほ、ほんとに本気?」と羞恥で泣きそうになっている。

「当たり前だろ」

ナツは絶対に折れる気はなかった。まだ普通のキスだって数えるほどしかしていないが――それもいつも自分からだ――これくらいのワガママは許される筈だ。恋人の証に、ルーシィからの愛のこもったキスが欲しい。
もう一度、低く名を呼ぶ。

「ルーシィ」
「う……ねえ、絶対にしなきゃダメ?」
「ホンメイならな」
「うぅ…」

真っ赤な顔で眉を下げた彼女に、ナツは待ち切れず「ほら、早く」とせがんだ。一向に引く気配のない彼に、ルーシィはしばらく逡巡していたが。
やがて諦めたように、小さく「わ、分かった」と言う声がした。細い指が、遠慮がちに自作のチョコを掴む。途端にナツは自分の目が輝くのを感じた。

「そ、そんなにじっと見ないで。恥ずかしいよ……」

精一杯恥じらって、迷うように右手を宙で彷徨わせている、まるでキャンディのように甘くて可愛い彼女。
ナツは目を伏せ、辛抱強くルーシィの決意が固まるのを待った。

「…よし、いく!」

やがて、目の前で思い切って動き出す気配がした――待ちに待った、ルーシィからのキス。
しかし。

「は…はいナツ、あーんして?」

ルーシィはぷるぷると震える手で、ナツの口元にチョコを差し出してきた。

(え)

こくん、と飲み込めば口の中に広がる甘くて固い感触に、ナツは意味が分からず真っ白な頭で先ほどの言葉を反芻した――確かに自分は「ルーシィが、食わせてくれ」と言った筈だ。

(いあ待て、こいつのことだからひょっとして)

特別感。恥ずかしい。口移し。バレンタイン。食わせてくれ。本命チョコ。キス。恋人。はい、あーん。数々のキーワードが、頭の中をグルグル巡る――まさか。
ナツの中に、ある仮説が浮かび上がる。もしかして、いや、もしかしなくても彼女は。

(何であの状況で、これだって思うんだよ…!)

「え、どうしたの?」

純情な恋する瞳が、不安そうに揺れる。
悔しい――結局、好きなのはいつだって自分の方なんだ。ナツは「あーもう、ちくしょう!」と半ばヤケになって、華奢な肩を引き寄せると。

(ルーシィの鈍感。恋愛オンチ。ばか。――好きだ)

いつも通り、自分から小さな唇にカプリと口付けた。

「ん、…なつ」

繋がった先のルーシィからは、甘い甘いチョコレートの香りがした。


〜Sugar, oh honey honey, you’re my candy girl〜
甘くて美味い、オレのキャンディガール
〜And you’ve got me wanting you〜
そうやっておまえはすぐにオレを虜にしちまうんだ

〔Fin.〕
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akiraさんリク「プレゼントネタで甘々なナツルー」でした!本番はご想像にお任せしますエンドですが、ちゃんと甘くなってるかしら…。
タイトルはhitomiの曲より。お誕生日おめでとうございます〜( ^)o(^ )

出典:The Archies『Sugar Sugar』











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miles-to-go様より、誕生日祝いに頂きました!誕生日とバレンタインの見事なコラボレーション!!甘々でラブラブで、まるで極上なチョコを味わった後のような感覚っ…!もう私、拝見した瞬間蕩けるの通り越して溶けましたよ!!しかも、本番はご想像に〜って……。きゃあーーー!!何の本番ですかお姉様ーーー!!おっとすみません。興奮のあまりつい(笑)…改めまして、こんなに甘っ々で素敵な誕生祝いを書いてくださったお姉様!本当にご馳走様です…じゃなかった、ありがとうございました!!


※無断転載・保存・印刷はしないようお願いいたします。(giftページ上部にも記載してありますが一応こちらにも記載させていただきます)


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