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□揺らめき揺らぐ
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(あれ、あたし……いつの間に寝ちゃってたんだろう)
体を揺さぶられているような揺すられているような少し乱暴な揺れを感じながら、まるで深海に沈んでいたかのような暗くて静かな世界からルーシィはゆっくりとたゆたう意識を浮上させた。
霞む視界が揺れている。自分の体が鉛のような感じで重く、指先一本動く事さえ億劫だ。
ルーシィは何とか首だけを動かし身じろぐと、途端に視界いっぱいに桜色が現れた。
よくよく目を凝らせば、その間から意外と形の良い耳朶が見える。そこでルーシィはやっとで自分がチームメイトの背中に担がれている事に気付いた。
少し乱暴に揺れる視界は腹の底から込み上げてくる酸っぱい臭いを殊更強める要因にしかならず、嘔吐感による気持ち悪さにルーシィは顔を顰めてチームメイトの首に巻き付けていた腕に力を入れて少し呻いた。
「ルーシィ、大丈夫?」
ルーシィが意識を取り戻した事に先に気付いたのはハッピーだった。
心底心配そうに顔を覗き込んでくる大きな瞳は今にも泣き出しそうな程に涙を湛えて潤ませている。
「あたし……どうしちゃったの?」
喉を絞って何とか出した声は我ながらか細く掠れている。
既に首に入れていた力が限界に達し力無くチームメイトの首元に頭を預ければ、ハッピーは、覚えてないの?と首を傾げて大粒の涙を一滴溢した。
*
今日も半ば強制的にクエストに連れ出したは良いも、どうやらルーシィは朝から体調が優れていなかったらしい。
己好みの討伐系のクエストにも関わらずルーシィはいつものようなツッコミをしてこず。しかも目的地へと向かう最中列車の中で乗り物酔いに苦しむ背中をいつものようさする事をせず、焦点の合っていない瞳を窓の外へと投げやっていた。
これにはハッピーは大きく首を傾げていたが、相棒はそうでもなかったらしい。
いつものように構ってくれないルーシィに苛立ちを募らせそれを隠す事無く目的地に到着し、早速討伐対象のモンスターにその苛立ちをぶつけた。
ルーシィもモンスターに殴りかかっているチームメイトの援護に回ろうと腰に巻き付けていたキーホルダーに手を伸ばしたところで。
ドサリと大きな音をたてながら、チームメイトーーナツの真後ろで倒れ込んだ。
*
「ごめん、ルーシィ。オイラ気付かなくって」
俯き殊勝に謝る姿は愛らしくもあるが何となく罪悪感が込み上げてくる。
ルーシィは何とか口を弧に描きながら、大丈夫よ、と優しくあやすようにハッピーの頭を撫でた。
「体調、悪かったのに、ギルドに、出てきた、あたしが、悪いんだから」
ハッピーは悪くないよ、とルーシィは力の入らない手で再度ハッピーの頭を撫でる。
「そうだぞ、ハッピー。悪いのはルーシィだ」
不意に会話に割り込んでくる不機嫌な声音。
ルーシィが反応するよりも早く、ハッピーが代わりに目尻を吊り上げながら相棒を言い咎めた。
「体調管理ぐらい、ちゃんとしろよな」
「ナツ!いくら何でも言い過ぎだよ!」
声を荒げる相棒にナツは面倒臭そうに顔を顰めながら振り向いた。
そこでルーシィの視界の端に映り込んだのは、赤くなった少年の目元。
ルーシィが疑問に思うよりも早くナツは直ぐさま顔を正面に戻した。
一瞬どういう事かと思考を巡らすも答えは出てこず。
不意にナツが抱え直すと、ルーシィはそこでしっかりと自分の体に巻き付けられている毛布の存在を感知した。
(そっか。心配してくれたんだ)
ルーシィは体の内側から暖かいものが込み上げてくるも、意識は反比例して段々と揺らいでくる。
ルーシィは何とか腕に力を入れてナツの首元に縋り付くようにしがみつくように抱き締めた。
「心配、かけて、ごめん」
「おう」
「クエスト、は、どうした、の?」
「ちゃんと倒した。安心しろ」
「そっか。良かっ、た」
「おう」
ナツは不意に空を見上げて鼻を啜った。
その様子が何となく可笑しくて、ルーシィは思わず笑みを溢す。
「今度は、ちゃんと、元気に、なって、から、一緒に、行こ?」
「おう!それまでちゃんと早く元気になれよ」
「うん、元気に、なる」
段々と朦朧としていく意識の中、ルーシィは殊更強く抱き着いてナツの耳元で、ありがとう、と掠れた声音で呟いた。
「あんま、心配させんなよ」
意識が沈む寸前にルーシィが聞いた声は、とても優しく甘かった。
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トコヤ様より相互リンク記念に頂いたお話です。受け取った瞬間あまりにも素敵すぎて思わず雄叫びを上げてしまいました!(笑)お忙しい中こんなに素晴ら萌えるナツルハピを書いてくださり本当にありがとうございました!!
※無断転載・保存・印刷はしないようお願いいたします。(giftページ上部にも記載してありますが一応こちらにも記載させていただきます)