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□Marry me?
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Marry me?


今日も今日とて、仕事に行っては好き勝手暴れ放題のナツに、ルーシィは嘆いていた。

「どーしよ、今月の家賃も誰かさんの破壊癖のせいで期日に間に合わない…(泣)」
「じゃあ、その誰かさんに、ルーシィを引き取ってくれるよう責任取らせちゃえば?」

そしたら家賃いらないでしょ、とカウンター内にいたミラジェーンに耳打ちされ、途端に真っ赤になる。しかし一瞬後に「あ、家賃…」と思い出し、また落ち込んでしまった。

「あー家賃どうしよう、ホントに」

カウンターでうな垂れる背中に気付いて、報酬減額の元凶であるナツが後ろから話しかけた。

「おまえ、いっつも家賃家賃言ってんな。金の亡者か」
「誰のせいで払えなくて困ってんのよ! あんたも何か対策考えなさいよ! てか、モノ壊すな!」

ルーシィの剣幕に、ナツは「んー」と唸りながら少し考える素振りをし、サラリと言った。

「じゃあさ、そんないつも払えねえなら、いいかげん持ち家のある奴んとこ行けば?」
「…どこよ」
「さあ、どっか」

――うちとか、とは言えず、ナツはストンと隣に座って彼女の出方を待った。ルーシィはムクリと起き上がると、両肘をつき、両手の上に顎を乗せて溜め息を吐いた。

(何よ、そんな他人ごとみたいな言い方しなくたって…)

「んー、でもいい人もいないしなぁ。あたしだって、貰ってくれる人がいればそうしたいけど」

さっきのミラジェーンに乗せられているとは思いつつ、もしかしてホントに「じゃあうちに来いよ」とか言ってくれるんじゃ――と期待して、チラリ、とナツを見て言うと。

「なっ何だよ? そんな奇特な奴いんのか?」
「うっさいわね。誰か一人くらいは拾ってくれるわよ!」
「捨て犬か」
「せめて家なき子って言って」
「自分で言うなよ。可哀想な奴だな」
「同情するなら家をくれ」

テンポ良く応酬しながら、見たところ特に気にしていないような反応に、ルーシィは内心ガッカリした。そうよね、ナツだもんね。彼の天然や肩透かしに振り回され続け、彼女はすっかり屈強な精神の持ち主になっていた。しかし、自分だけ振り回されるのは癪だ。何とか彼に一矢報いてやりたい。

(――このままだと悔しいし、ちょっとあたしから仕掛けてみようかな)

「そういえば、あんたも持ち家あったわよね」
「そ、そうだけど何だ?」

ナツの心臓がドキリと跳ねた。もしかして「じゃああんたんちに置いてよ」とか言ってくれるんじゃ――と期待に胸を弾ませていると。
彼女は笑顔でその期待を奈落の底へと叩き落とした。

「でもハッピーがいるもんね。あんたこそ家持ちでも、コブ付きじゃ誰もお嫁に来てくれないんじゃない?」
「……残忍な奴だな」

それは彼の本心からの感想だった。まるで他人ごとのような、からかうような言い方に、ナツは心がバキバキに折れ、極寒の北風に吹かれた心地がした。

(――こいつ、全然オレのこと意識してねえ)

しかし、表面上はポーカーフェイスを装って何事もないフリをする。度重なる空回りに、ルーシィの尋常でない鈍感さに、彼はすっかり打たれ強くなっていた。とりあえず、当たり障りのないように話を繕う。

「べ、別に嫁に来て欲しい奴なんかいねえし」
「そ、そお…」

(おまえならいいけど。――つか、おまえはどうなんだよ? うちに来る気、あんのか)

チラリ、と横目で彼女を見遣ると、ルーシィはまだ何か言い足りなさそうに、もごもごと口を開いた。ナツにとって、とんちんかんな方向で。

「じゃあ、ナツが結婚する時はあたしがハッピー引き取ってあげようか? あたし、ハッピー好きだし」

ナツは思わず半目になった。何を言ってるんだこいつは、おまえがハッピーを引き取ってどうすんだよ。そんなら三人で暮らせば万事丸く収まるだろ、ホントに鈍感な奴だな。
と彼が苛ついて何も考えずに口を開いたところで、ルーシィがゴニョゴニョと先ほどの続きを言い添えた。

「じゃーおまえが嫁に来れば?」
「…ナツごと一緒に」

((――――――え???))

どちらも同時に驚いて固まった。相手のセリフをもう一度頭の中で噛みしめる。口を開いたのは同時だった。

「へ? オレが結婚する時、オレごとおまえが引き取るって?」
「って、あたしがあんたのとこにお嫁に行くの!?」

どう考えても、自分達は同じことを言っている。ルーシィがナツごとハッピーを引き取るということは、ルーシィがナツのお嫁に来るということであって――。

((え、ええええええええ!!!???))

そこまで思い至って、ふと気付いた。あれ? 自分達は結婚の話をするような仲だったっけ――? そもそも、恋仲ですら、ない。というか、相手が自分のことをそんな風に見ていたとすら知らなかった。

「おっおまえ、さっき好きな奴いねえって言ってたじゃねえか」
「ナ、ナツこそ嫁に来て欲しい人なんかいないって言ってたじゃない」
「い…いるから言ってんだろ」
「へ、へえ、いたんだ……」

(何だ、またあたしの一人勘違いか。そっか、ナツ、好きな子いたんだ……。あたしったら、さっきの挑発を真に受けて、プロポーズかと思っちゃって、恥ずかしい)

ルーシィはナツの発言にまた肩を落とす。しかし、横に座る彼は、赤い顔をして頬杖をつきながら「ここに」とルーシィに人差し指を向けていた。疑問符を飛ばしながら、ルーシィも、自分に人差し指を向ける。ここに、とは。

「…………? ――――っ!?」

ナツはコックン、と頷いた。やっとルーシィは、彼の言いたいことが分かった。

「え、あ、あたしっ!?」
「他に誰がいんだよ」

(嘘――、信じられない)

真っ赤な顔でルーシィは自分のほっぺをつねってみた。痛い、ってことは、夢じゃないんだ。今度はニヤケが止まらなくなって、必死に両頬を押さえていると、隣のナツから不安げな声が飛んだ。

「おまえは? 好きな奴、いんのか」
「………いる、よ」

ルーシィは真っ赤な顔のまま、「ここに」とナツに人差し指を向けた。彼の理解は早かった。途端に同じくらい赤くなる。

(え……これって、夢じゃないよな)

赤くなったまま固まった二人を見て、ミラジェーンがカウンター越しにニコニコと笑いかけた。

「二人とも真っ赤。まるでくっついた隣同士の、さくらんぼの実みたいね。―――で、どうするの?」
「ど、どうって…」
「だって、同じ気持ちだったんでしょ?」

付き合うのか、という軽い気持ちで聞いたミラジェーンだったが。
眉を下げて顔を見合わせたナツとルーシィは、彼女の予想の斜め上をいく見事な意思疎通を交わした。

「じゃ…じゃあ結婚すっか?」
「そ、そうね。二人揃ってそれを望んでることが判明したわけだし」
「おう。い、いつにする? オレはいつでもいいけど」
「あ…あたしもいつでもいいわよ。でも家賃の期日があるし、出来るだけ早い方が助かるかな」
「じゃ、じゃあ今から家帰って片付けとくから、明日引っ越して来いよ」
「そんなに早くいいの!? ありがとう! じゃあ急いで業者の手配しなくちゃ」
「リクエストボードに依頼状出しときゃいいだろ」
「え、そんなこと依頼していいの? ――じゃあ申請書もらえますか、ミラさん。あれ、ミラさん? おーい」

まるで遊びに行くようなノリで、するすると目の前で結婚の話がまとまっていく。

(――今まで散々じれったかったのに、何でくっついた途端、一気に百段飛ばしなの?)

いつかするなら明日しても一緒だ、と、あまりに飛び抜けた発想で結婚を決めた二人に。
ギャフン、とも物申すこともできず、ミラジェーンはピシリと固まったまま、ただニコニコと笑っているしかなかった。


〜Baby, I love you〜
オレ、おまえが好きだ
ねえ、好きだよ

〔Fin.〕

出典:Che'Nelle『Baby, I Love You』











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Milestoneのお姉様ことマイルズさんより頂きました「ナツルちゃんのプロポーズ」のお話です。「このお話大好きなんです!」とラブコールしてしまった私に「そんなに愛してくれるなら〜」と仰ってくださった上、快く展示を許してくださいました!お姉様!本当にありがとうございました!!


※無断転載・保存・印刷はしないようお願いいたします。(giftページ上部にも記載してありますが一応こちらにも記載させていただきます)


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