gift

□Voice
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「…ち、くしょ…」

震える手でグッ、と握り拳を作るも暫くするとまた、ナツは項垂れるように頭を垂れた。

(力…出ねえ…)

もう何度目かになる溜息さえ無意識に震えて、自然舌打ちが出る。


目が覚めてから目の当たりにした自分の格好ーー。
それはあまりにも愕然とするものだった。


壁に拘束された手足。
少しづつ奪われる魔力ーーは、何もないと思っていた天井の隅に一つだけ浮いていた魔水晶によるものだろう。思うように力が入らないのはこれのせいだった。
手足に巻き付いた皮のベルトは耐熱製な上かなり強度に作られているのか、いくら炎を出してもどんなに暴れてもびくともしない。
なんとか外せないかと何度となく試してはいるが、如何せん力の入らない今の状態では虚しくも無駄な抵抗に終わるだけだった。

おまけにーー

「は…ぁ…ッ、く…そ…」

どうやら気絶していた隙に一服盛られたようで、先程から身体の内側…それも腹の下のほうといった非常にやばい場所が疼きに疼いてしょうがない。
見下ろした先の自身は既に軽く起立しかけていて、ナツはもういっその事死にたい気分だった。
膝立ちの状態で手足を拘束されているため隠そうにも隠せず、それが更に煽りとなって僅かに残る正常な理性をも否応なしに消しにかかる。

こんな自分は嫌なのに。
しかし、薬の力には抗えない。

徐々に荒く短くなってきた息を吐き出しながら、ナツは俯けていた目線をのろのろと上向けた。

見てはいけないーー。
最後に残った理性が言うけれど、それもすぐに、欲望が支配する荒波によって呑み込まれてしまった。


「…な、つぅ…ッ」
「っ…!うっ…、る、しぃッ…」

目の前の、僅か二メートルと離れていない先の壁。
そこで、自分と同じようにベルトで手足だけが壁に張り付けられ膝立ちにさせられた状態でルーシィがもじもじと身をくねらせている。

本人に自覚はないのだろう。
熱に浮かされ始めた思考ではどうにもならないのか、朱色に染まった目尻もそこから流れ落ちる涙も切なそうに寄った眉もーー。
己が今どんな表情でこちらを見つめているのかなんてわかっていないような状態だった。
そしてそれをしながら内腿を擦り合わせる様は、手も足も出ないこの状況下において正に生殺し。

「…ッ」

思わずナツは生唾を飲み込んだ。
いくらそちら方面に疎いと言われる自分であっても流石にこれは解る。

ーー自分は今、ルーシィに欲情している。

今すぐルーシィに触れたい。
今すぐルーシィが欲しい。
今すぐルーシィの中に、挿れたい。

そんなことしか考えられなくなっている。

「あー……くっ、そッ…」

抑えの効かなくなってきた衝動は、そろそろ限界に近かった。
このままでは、頭がどうにかなってしまう。
かといってこの拘束された手足ではそれを紛らわすことさえできない。

増大していく疼きに耐えつつ湧いた頭で懸命にどうしたらいいかを考えていたナツだったが、不意に名前を呼ばれて顔を上げた。

いやーー上げてしまった。

途端、驚く程扇情的に見つめてくる表情とその際うっかりと深く吸い込んでしまった濃い香りに一気に脳が揺さぶられて、ナツは顔を上げたことを後悔した。

「ッ!っ…」
「なつ…」

視界がグラつく。
身体が熱い。

「な、つぅ」
「…っ、シィ…だいじょぶ、か?」

なんとか耐えてそう聞くけど、ルーシィはふるふると首を横に振った。

「も、ダメッ…あたし…おかしく、なりそ…」

言葉の端々に、熱を孕んだ吐息が混じる。

「…が、んば…ぁ…、ぐッ!」

がんばれーー
言ってやりたいのに上手く声が出せない。

下半身を直に刺激してくるような香りと音は、今のナツにとって強烈な媚薬でしかなかった。
特にその小さな唇から漏れ出るはぁはぁと苦しそうな、けれど甘く香る吐息は、薬のせいでより鋭くなった聴覚と嗅覚に直接流し込まれているような錯覚に陥る。

ナツは益々荒くなる呼吸に抗おうと奥歯を噛んで必死に自分を繋ぎとめようとした。

けれど、それも時間の問題だった。

鼻にかかった吐息が耳に届いた瞬間。

「ッあ…ん」
「ッ!」

そこまでが、限界だった。

「…ルーシィ」
「…?」

口が勝手に動く。
気付けばナツはギラつく双眼をルーシィへと向けるとーー

「足…開け」

こう、口走っていた。









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