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□恋するりんご
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「りんごってなんで赤いんだろうな」


ルーシィんち。
テーブルの上の果物カゴに入ってた赤いりんご。
何気なく手に取って何気なく口にした独り言だったけど、ルーシィは律儀に拾ってくれたらしい。
読んでいた本から顔を上げると、悪戯っぽく笑ってこう言った。


「恋してるからじゃない?あたしに」
「こい?」
「…や、気にしないで。ただ言ってみただけよ」
「ふーん」

数秒考えて、首を傾げる。

「あ、ってことはなにか?みんなルーシィに恋してんのか?」
「…だから!ただ言ってみただけって言ってるでしょ!」

ちょっとからかっただけなのに、ルーシィはすぐにプンスカ怒り始めた。
「この世の全てのりんごがか?」と更に引き下がろうとしない俺に、とうとう「うっさいわねっ!」と本を閉じて口を尖らす。

面白い。ーーけど。
…ああ、そうだな。
ごもっともだ。

「へーへー」

俺は適当に返事しながら「まったくもう」だとか「乙女のちょっとした可愛い冗談じゃない」だとか言ってる声にまったくな…、と内心苦笑いで頷いた。
まだぶつぶつ聞こえる文句を右から左に流して、宙に放ったりんごをぱしり、とキャッチする。


冗談。
そんなのわかってる。
ただの気まぐれな雑談。
それもわかってる。
けど、どうにも胸の辺りがモヤモヤしてしょうがない。

ルーシィに恋してるから、なんて。
例え冗談だとしても、正直ーー気に食わない。

俺は手に持っていたりんごを見下ろした。
ルーシィに惚れた赤いりんご。
ジュビアじゃないがだんだんこいつが……なんだっけ?ああ、あれだ、恋敵?ーーそれに見えてきた。
馬鹿馬鹿しい。
けど、一旦思いだしたら止まらない。
まったく、どうしてくれる。

そんな悶々と悩む俺の隣では、なんかおとなしいと思ってはいたが案の定、ルーシィはもう既に本を開いていた。

「……」
「…なによ?」

じっと見つめる俺に漸く気付いたのか、疑わしげな目を向けてくる。

顔色は当然、赤くもなんともない。

「いあ、別に…」

とは言いつつも、どうも腑に落ちなくて俺は尚もルーシィを見続けた。

「あ」

そんで、思いついた。

赤くないなら、赤くすればいい。

「なんなのよ?」

まだこっちを向いてるルーシィを見つめたまま、俺は手の中のりんごを一口齧った。

それから、その顔に近づいてーー

「え?……んむッ?!」

顎を持ち上げるのと同時に、目の前の唇を有無を言わせず塞いだ。
暴れる身体を片腕で押さえながら、ちょうど半開きになってたそこに舌で欠片を押し込む。

「…んッ、ゃ…は…ッ」

すぐに離れようと思ってたけど初めて味わうその感触は柔らかすぎて、甘すぎて。

「ん…ぁ、は…んぅ…」

漸く動いた俺の腕がルーシィを解放したのは、それからたっぷり三十秒は過ぎてからのことだった。
押し込んだ欠片は既にもうない。

名残惜しくも離れると、蜂蜜色の目が潤んだまま俺を睨み上げてきた。

「っ…、っ、」

何か言おうとしてるみたいだったけど息が整わないのか、俺の思惑通りりんごみたいに真っ赤になったルーシィはただパクパクと口を開け閉めするだけ。


だから俺は

「…なあ、ルーシィ」

お互いの物で光る唇の端を親指の腹で拭ってやってから、まだ肩で息をしてるルーシィに悪戯っぽく笑うとこう言ってやった。


「恋してるだろ?俺に」


暫く驚いたように見上げてきた後、りんご以上に真っ赤になったルーシィは俺のマフラーに顔を埋めると、そこで小さく「…バカ」と呟いた。










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