gift

□男達の仁義無き戦い
1ページ/2ページ



何時もなら気にも留めない酔っ払いの戯れ言。
だけど、今日は何故か耳に付いた。



***



昨日からチームメイトでもあるルーシィが構ってくれず、ナツは知らず不機嫌になりながらギルドに顔を出した。
何でも、ギルドの仲良い女性陣で集まってお泊まり会をしているらしい。女子寮で開催されているので、勿論男子禁制だ。それがナツにとって殊更面白くなくて眉間に皺を深く刻み付ける要因にもなっていた。
ナツがぶすくれながらテーブルに顎を置いてギルドの喧騒を眺めていると、不意に性能の良い耳が金色髪の少女の名前を拾った。
勢い良く体を起こして足を向ければ、程よく酔っ払ったマカオとワカバが何かを話題にして話していたらしい。
ナツは眉をひそめつつも好奇心には勝てず、二人の会話に割り込んだ。

「ルーシィが、何だって?」
「おおう、ナツか。いや、誰が妖精の尻尾の中で一番良い女なのか話してたんだよ」
「マカオ、そりゃあお前、勿論ミラちゃんだろ?可愛いし料理もできるし気も利くし」
「まあなぁ。けどよ、やっぱルーシィやエルザも捨てがたいじゃねえか。ナイスバディだしよぉ」
「そうだけどよぉ。二人とも可愛いし美人さんだしな」
「?ってか二人とも母ちゃんがいんじゃねぇのかよ」
「ぬぐっ」
「……それを言うなよ、ナツ。あとオレは今フリーだ。言わせんな……」

男の哀愁を背中に漂わせながら突如テーブルに突っ伏した二人にナツは不思議そうに首を傾ける。

「まあ、良い女とか良くわかんねぇけど、ルーシィだったらずっと一緒にいても飽きねぇぞ?面白ぇし料理も美味いし」
「はあ?!ナツ、ルーシィの手料理食べたことあるのか?!」
「当たり前だろ?」

何を今更、とナツが首を傾ければ、途端にその場にいた独身男性共の阿鼻叫喚が響き渡った。
やれナツの毒牙にかたっただの、ルーシィが汚されただのと好き勝手叫び散らす仲間達にナツはうんざりし、この惨劇を黙らそうと両手に炎を纏わせた。
取り敢えずナツは近くにいたマカオを殴ろうと構えたところで、入り口付近で誰かが何かに驚く声が聞こえてき、反射的にそちらへ視線を向けてしまい、ナツは大いに後悔をした。
案の定、たった今ギルドにやってきたであろうグレイが顔を顰めながら阿鼻叫喚地獄風景のギルドを横切っていた。その手には似合わない可愛らしい袋包みがぶら下がっている。
ナツは鼻を鳴らすと、何時もグレイの傍にいる一途な少女の匂いを嗅ぎ取った。

「よお、グレイ。これまた似合わないもん持ってんな」

この阿鼻叫喚からいち早く立ち直ったマックスがグレイに冷やかし目的で話しかけたしかし、何故か頬を少し染めて照れ臭そうに頭を掻きながら、今現在のギルドに油を注いだ。



「……さっきそこでジュビアから貰ったんだよ」



一瞬にしてギルドは凍り付き、再度独身男性による断末魔が辺りに響き渡った。
そんな中、ナツだけがグレイを睨み付けていた。
ナツは苛立ちながらグレイの元へと向かい、途端に訝しげにするグレイの顔に向かって人差し指を突き付けた。

「ルーシィの方が断然良いんだからな!」
「……はぁ?とうとう自分の熱で頭沸いたんか?クソ炎」
「沸いてねぇよ!変態氷野郎!」
「んだとぉ!?やんのか?!……あ、ミラちゃん。これ持っててくれ」
「はいはい。ジュビアからの愛妻弁当ね。ちゃんと預かっておくわ」
「……や、そんなんじゃねぇけどよ」

途中近くを通りかかったミラジェーンにグレイが大事そうに弁当を預ければ、グレイはからかわれて照れ臭そうに頬を指で掻いた。それが殊更ナツの不機嫌を煽った。

「んだよ!確かにジュビアの料理は美味ぇ。けど、ルーシィが作った料理の方がもっと美味ぇんだぞ!それにからかうと面白ぇし飽きないし!」
「何突然惚気話をおっ始めてるんだよ!この馬鹿炎!それに、ジュビアの飯の方が中々筋が良いんだよ!」
「んだとコラァ!?」
「やんのかコラァ!?」

互いに額をぶつかり合わせて火花をバチバチと散らしているところに、イカれてやがる、と更に油を注ぐ輩がいた。
二人ともつられてそちらに顔を向ければ、そこには頬杖を突いて食事をしている鉄の滅竜魔導士がテーブル席に座っている。鉄の塊を口に運んでいたガジルが二人の視線に気付いて顔を向ければ、二人とも今にでも殴りかかってきそうな気迫を身に纏わせていた。
ガジルはその二つの視線を事も無げに受け止め、そして、面倒臭そうに視線をずらして再び鉄の塊を食べ始める。これにはナツとグレイは激昂し、お前はレビィの料理を食べた事があるのか、とガジルを挑発した。
すると、ガジルはピクリと眉を動かすと、意地悪く口許を歪め、ギヒッと笑った。

「ハンッ。鉄も空気も貰ったわ」
「は?空気?」
「おうよ」

ーー口移し、でな。

そしてギルドは一気に地獄と化した。



***



怒りに身を任せたジェットが″神足″を発動し、仲間達の間を縫うように走り撹乱させた後に勢いをそのままにラリアットをガジルの首に目掛けて食らわす。しかし、ガジルは寸でのところでこれを見切り、ステップを踏みながら横に避けて上体も反らした。

そのガジルが軸足を置いた所目掛けて次にドロイが魔法″植物″を施した植物の種を投擲。床に着地すると同時にガジルの足を雁字絡めに拘束しながら蔦が急速成長して足場を不安定な物へと変える。
ガジルは両手を鉄竜剣に換えて身を捻りながらこれを断ち伐る。しかし、それでも蔦はガジルを拘束しようと伸びてくる。

これをチャンスと見たナツが火竜の咆哮をぶっ放し、燃えやすい蔦を糧に炎の威力を上げながらガジルに火の手が伸びる。ガジルも負けじと鉄竜の咆哮をぶっ放して周りを燃やし尽くして破壊しながらこれを相殺する。

一旦対峙する二人の滅竜魔導士に鉄槌をくわえようと、グレイは二人の頭上に″氷撃の鎚″を造形する。
影が射した二人は上を仰げば途端に″氷撃の鎚″が落ちてきて、ナツは火竜の劍角で、ガジルは鉄竜槍・鬼薪でこれを打ち砕く。しかし、グレイは口許に不敵な笑みを浮かべている。

途端に、三人の足場からマックスの″砂の反乱″が展開され、グレイは足場を作って回避するも、ナツとガジルは攻撃を受けながら足場を取られてしまう。
それでも体制を何とか立て直そうとする二人にウォーレンが″念話″をもってして、脳を揺さぶるような大声をあげた。
案の定、予想外の攻撃に二人とも一瞬視界が揺らぎ、受け身を取る間もなく無様に地面へと叩きつけられた。

グレイはその間、これをチャンスと捉えた仲間達に対して″氷創騎兵″を展開して一気に片を付ける。
しかし、運良く避けたビジターが″踊り子″による補助魔法を展開。傍にいたナブの攻撃力と防御力、スピードを高めさせるも、ナブが魔法を発動する前にナツの火竜の鉄拳とガジルの鉄竜棍によってビジターとナブは討たれた。

そして、ギルドで未だに立っているナツとグレイとガジルがこの喧嘩の終止符を打つべく改めて対峙したところで。
星のような瞬く流れのように一人の男が、天井に穴を開けながら上から乱入してきた。

立ち込めた砂埃が段々と晴れてきた頃、しゃがんでいた男の人影が立ち上がる。そして視界が晴れた頃、そこにいたのは、いつものミストガンの格好ではなく、エルザ命と書かれたハチマキをしたジェラールが立っていた。
思わず絶句する三人を尻目に、ジェラールは至極真面目に構えを取り始めた。



「……いいか、妖精の尻尾の中では、いや、全世界の中で一番素敵な女性はエルザだ!」



「んだとぅ!?ルーシィが一番に決まってんだろ!!!」
「いや、ジュビアが一番家庭的だ!!!」
「馬鹿言え、レビィの方が可愛げがある!!!」

ツッコミ不在の爆弾発言問題発言は益々大きくなっていき、四人のくだらない論争はヒートアップしていく。
誰もが一歩も引かない状態が続き、先に痺れを切らしたのはナツだった。

「ぬがああああ!!!!!ルーシィが一番だっつってんだろおおおお!!!」

ナツは大気に炎と雷を纏わせながら雷炎竜モードを展開。

「っつーかさっさと終わらせるぞ!!!ジュビアが心配になってきた!!!」

グレイは空気を凍てつかせて体の半分を悪魔化しながら滅悪魔法を発動させる。

「ギヒッ、ほざいてろ。勝つのはオレとレビィだ!!!」

ガジルは黒い影の柱を立たせながら鉄影竜モードを展開。

「今ここでエルザの素晴らしさを教えてやろう」

ジェラールはその身に圧倒的な魔力を纏わせていく。

「ぬおおおおおお!!!」
「うおおおおおお!!!」
「ぐおおおおおお!!!」
「はああああああ!!!」

そして、

「滅竜奥義″改″紅蓮爆雷刃!!!」
「氷魔の激昂!!!」
「鉄影竜の咆哮!!!」
「星崩し!!!」

爆発的な魔力と衝撃と轟音がマグノリアの街の半分を包んだ。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ