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□7月2日の星
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私の夢は、おばあちゃんのような立派な星霊魔導士になることだ。



信じる心を大切にしなさい。強い意思を持って、気高く、美しくね。常に笑顔でいることも大事よ?


いつもおばあちゃんが言っていた口癖。

だけど今日だけは…この時だけは…。
泣いてもいいよね?

ねぇ、ルーシィおばあちゃんーー。






こんなに幸せな7月2日は初めてだーー。

そう言って、にししと笑ったおじいちゃんの顔は本当に幸せそうだった。

皺くちゃな右手にはついさっき、ありがとうねーーと最期に綺麗な笑顔を見せて深い眠りについてしまったおばあちゃんの左手がしっかりと握られている。




お医者様の話では、老衰…とのことだった。
そして同じ日に同じ老衰と診断されたおじいちゃんの命の灯火も…もうすぐーー






「ハルジオン…で、初めて会った時も…こうやって…手を…差し伸べて…くれたんだ」

皺枯れた声が途切れ途切れに聞こえてくる。
私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔のままおじいちゃんが横たわるベッド傍に膝をついて、繋がれた手と手を見つめた。

「…おじいちゃんとおばあちゃんは本当に仲良しだったよね」
「ああ。まさか…最期も仲良く…一緒…だとは…思わなかっ…たけど、な」

おばあちゃんの方を向いていた瞳が、くるりと反対側にいる私の顔に向く。

「そんな顔…すんな。笑っ…てろ。ばあちゃんに、いつも言われてた…だろ?」
「無理だよぉ…」


涙で視界が滲む。


だって、大好きだったから。
強くて優しくてあったかくて…。
そんなおじいちゃんとおばあちゃんが、大好きだったから…。

こんな時まで笑顔で…だなんてーー

「大…丈夫だ」
「っ…」

溢れて止まらなくなった涙を必死に拭っていた私の頭に、ふわり、とおじいちゃんの大きな手が乗せられた。

「俺達…は、いつもお前の側に…いる。お前は…ルーシィみたい…な、星霊魔導士に…なるんだろ?」

そうだ。
おばあちゃんみたいな星霊魔導士。
それが私の目標。

私は、コクン、と頷いた。

「なら…大丈夫だ。お前は…ルーシィに良く、似てる。すぐに強ぇ魔導士に…なれる…だろう」
「…んと?ほんとに?」
「ああ、絶対だ。俺達は…星になって、お前達をずっと…見守ってる。見えなくても…心は…絆は、繋がってる」
「おじいちゃ…」


頭を撫でる手にはもういつもの暖かさはない。
それでも暖かかった。
大きな大きな暖かさで、心がいっぱいになる。

「うん…。うん!…私、絶対おばあちゃんみたいな立派な星霊魔導士になる!……だからおじいちゃん!おばあちゃんと一緒に見ていてね!」

そう言って私は、にっこり笑ってから、グッと拳を突き出した。
鼻声だけど、はっきりと。
いつも、おじいちゃんとおばあちゃんが大好きと言ってくれていた笑顔で。

「おう。わかった……約束な」

私の拳にコツンと拳を合わせると、おじいちゃんも、ニカッと笑った。

けど、すぐにその拳は、ポフッと軽い音を立てて布団の上に落とされた。


「…そろそろ…眠くなってきた…な」

ふあ、と欠伸をして目を閉じたおじいちゃんを見て、後ろに立っていたママが駆け寄る。

「っパパ!」
「お義父さん!」

ママの横には心配そうにおじいちゃんを見つめるパパも立っていた。

「…起き、てんよ……まだ。…けどもお…、寝るわ。…ルーシィが…待って…る」
「パパ…」
「…ん?」
「ありがとう。ママにもそう伝えて?」

ママの声に、おじいちゃんの目が薄く開かれる。


「ああ」

一瞬見えた幸せそうな笑顔。

「……じゃあ……、な」


目を閉じると、それっきり…その目が開かれることはなかった。

「おじいちゃん…おばあちゃん…」

また、涙が溢れてくる。
ふと見ると、右手はしっかりと左手を握ったまま。

「本当に、仲良しなんだね」

滲む視界に映る二人の顔は、微かに笑っているように見えた。


「パパは…おじいちゃんはね、とてもおばあちゃんのことを愛していたのよ」

ママが目尻にいっぱい涙を溜めて、ぎゅっと私を抱きしめる。

「違うよママ」
「え?」

私も、ぎゅっとママを抱きしめ返した。


「愛していた、じゃなくて」


そう。
その想いは過去形なんかじゃない。
きっと星になっても、現在進行形。



私は、グイッと袖で涙を拭くとママとパパに向かって、ニカッと牙を見せた。





「おじいちゃんは今もこれからもずっとおばあちゃんのことを愛してるんだよ」




ーー絶対ね!









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