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□わたあめふわり。
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ふわふわ。
ふわふわ。
空から柔らかな白が降ってくる。

(わたあめみたい)

思いながら翳した赤い手袋に、雪の結晶がはらはらとくっついた。



昨晩から降り始めた雪は人々が寝静まっている間にもせっせと降り続けていたらしい。
今朝には地面や建物の屋根を覆い隠す程見渡す限りの雪景色を作り上げて、今はゆったりと空の散歩を楽しんでいる。

澄んだ空気と、どこまでも広がる絶景。
プラス、ああだこうだと言い合うはしゃぎ声を背中に聞きながら、ルーシィははぁ、と白い溜息を漏らした。


毛布を被っていても底冷えする寒さにルーシィが起こされたのは早朝6時半のこと。
吐いた息の驚きの白さと、部屋の中が異様なまでに極寒なことに起き抜けの頭で疑問符を浮かべていると、その原因が開け放たれた窓からにこにこと手を振っていた。
いつから?と思うよりもなによりも、とにかく早く窓を閉めてほしくて口を開く。
けれど、それを言おうにもキンキンに冷えた空気のせいで上手く声が出せない。
そんなルーシィに向かって彼が放ったのは満面の笑みと「おはよっ!遊ぼうぜルーシィ!」と言う理不尽な朝の挨拶だった。

いくら断ってもきかない上、しまいにはこちらの布団を剥がしにかかる始末。
そのまま潜りこんで来ようとするナツにとうとう折れて、全力で窓の外へ蹴り落とすのと引き換えにルーシィは彼の誘いを泣く泣く承諾したのだった。



そして今に至る、のだが。

(はぁ…)

思い出して、また溜息が漏れた。

(…でも)

これはこれでいいか、とも思う。

休日でまだ朝も早いせいか、アパート前に降り積もった雪道には自分達が付けた足跡しかない。
真っ白い絨毯を敷いた運河前は、いつも通っているのにまるで別世界に来たような錯覚さえした。

最初こそ渋ったけれど、案外出てきて正解だった、と今なら思える。
この白銀の世界を贅沢にも独り占めしているようで、なんだか得をした気分になれたから。

まだ誰の足跡も付いていない積雪がその場に立つルーシィの眼下に白く輝く。
弾む気持ちのままに足を踏み入れると、ブーツの横のポンポンも元気良く跳ねた。









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