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□ドナドナで確かめて
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ジュビアがギルドに顔を出したのは昼も少し過ぎた頃、昼食を終えて仕事に出た者たち以外のちらほらと人もまばらになった時間帯だった。

愛しの彼のためにとたっぷりの愛情を込めて作ってきたオレンジマフィン。
それが入った手提げ袋の中身を一度確認してから扉を潜ると、これから仕事先へ向かうのだと言うレビィとガジルに出くわした。
仏頂面で先を行く昔馴染みの後ろを嬉しそうについて行く小柄な少女に「行ってらっしゃい」と手を振りつつ。
羨ましいな…と頭を掠めた思いに赤面しつつ。
いつしか日課となった“グレイ様探し”をさりげなく実行する。

そう広くもない酒場内をぐるりと見渡す途中で難なく見つかった彼はカウンター席に座っていた。
よく見ると、なにやら隣りのナツと共に飲み比べで競い合っているようだ。

今日は喧嘩じゃないのね、とホッと胸を撫で下ろしながら軽やかに歩を進めたジュビアの耳に「ミラちゃんもう一杯!」と言う威勢の良い声が聞こえてくる。
タイミング良く渡されたジョッキを豪快にあおるその後ろ姿さえ素敵に見えて、自然と笑みが零れた。

しかし、そんなジュビアがふふっと口元を綻ばせた時だった…。
まるで糸が切れたかのようにガタン!と派手な音を立ててグレイの上半身がカウンターテーブルへとくずおれたのだ。


「ぐ、グレイ様っ!」


慌てて駆け寄って、もう一度彼を呼ぶ。

涙で滲む視界を必死に凝らして顔を確認しようと身を屈めたのと同時に「あ!」という声が聞こえた。


こと彼に関しては敏感に反応するジュビアの第六感はこんな時でも優秀に機能してくれる。
しかしながら瞬時に導き出した統計結果はとても嫌な予感しか伝えてくれなかった。

何故ならその声の主は、今の今まで酒の飲み比べで競い合っていた彼らにカウンター内からジョッキを手渡していた魔人ーー

ミラジェーン=ストラウス

別名“妖精の尻尾の影の首謀者”


ーーその人であったからだ。









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