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□ドナドナで確かめて
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「ドナドナドーナードーナー、仔牛をのーせーてー」
耳に心地良い低音が響くーー。
突然乗せられた荷車に揺られながらギルドの狭い酒場の中を回るのもこれで三週目となった。
「ジュビアー!」
スタート地点であるカウンター席の前を通り過ぎる間、にこにこと二人して手を振ってくるナツとルーシィ。
「あはは…」
それに苦笑いで手を振り返すのもこれで三回目。
先程から自分が乗る荷車を上機嫌に押して回っている張本人は、この状況とその歌詞に出てくるフレーズとを掛けたのだろうか…。
相変わらず大きくはないが決して小さいとも言えない声量で、童謡『ドナドナ』をエンドレスに歌い続けている。
普段口の端を上げてニヒルに笑う彼にしては珍しくずっと子供のような笑顔で楽しそうに歌っているものだから、正直そのあまりにも違いすぎるギャップに戸惑ってしまう。
滅多にお目にかかれないのだから、と意を決して一度振り返ったのは数分前。
目が合った瞬間、にこぉっと彼らしからぬ弾ける笑顔で「楽しいな!」と輝く白い歯を向けられてからというもの、ジュビアはそれ以降後ろを振り返れなくなってしまった。
いつも笑顔を向けるのは自分のほうなのに。
いくら選曲がドナドナであったとしても彼が歌う姿などとても希少価値なことで、それが今日幸運にも初めて見れたというのに。
これでは調子が狂いすぎて、心臓がノックアウト寸前……いや、もうすでに停止寸前だった。
一体、彼の正気はいつになったら戻ってくるのだろう……。
いずれ終わりを迎えるこの夢のような時間。
早く覚めてほしいような、でもまだ覚めてほしくないような…。
ジュビアの心は複雑だった。
けれどやっぱり早く会いたい。
いつもの、彼にーー。
(まだ、元には戻られませんか?……グレイ様)
いつの間に脱ぎ落とされたのか、行って帰ってきた時とほぼ変わらない状態でそこに落ちている淡い若草色のシャツが通り過ぎる。
それを見えなくなるまで目で追ってからジュビアは小さく溜息を漏らした。