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□俺色に染まれ大作戦
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それを発見した時、俺は一目でビビッときた。
手に取って具合を確かめる。
くっ付いているタグに書かれた『ピンクベージュ』の文字を確認した瞬間、自分でも顔がニヤけていくのが分かった。


「ルーシィ!おーい、ルーシィー!」


遠くの彼女を大声で呼ぶ。
そんな大声で呼ばないでよ!と返ってきた良く通る声の出処目指して、俺は鼻歌交じりに大股で歩き出した。
もちろん手には、今しがた見付けたばかりの物を持って。


「見てろよルーシィ!」


俺はこれから、ある作戦を実行する。






たいして広くもない筈なのに、やたらと迷路のような店内をあっちこっち遠回りした結果やっとの思いで辿り着いた俺を待っていたのは案の定、すこぶるご立腹な様子で腰に手を当て眉間に深い皺を刻んだ彼女のお叱りの言葉だった。


「……遅い!あと大声出さないでって何度言ったらわかるの!他の人にも迷惑だしすっごい恥ずかしかったんだからね!」
「わりぃわりぃ!でもよお、んなこと言ったってあっちもこっちも服だらけなんだからしょーがねぇだろ。そのせいで鼻も効かねぇし…こんなんでよくみんな迷子になんねーよな」
「あんたじゃあるまいし、服屋さんで迷子になるなんてナツくらいじゃない?」
「バッ!俺は迷子になんかなってねぇっ!」
「ハイハイ、わかったから叫ぶのだけは止めてね。…ってかあんたソレ、なに持ってんの?」


俺への小言をあらかた喋り終えて満足したのか、さっきよりかは幾分柔らかい態度でルーシィが俺の持っている物を指差す。


(きたっ!)


俺はそれに、待ってました!と言わんばかりに身を乗り出した。
ルーシィが一歩引いたような気もするけど、気にしない。
今はそんなことよりこっちの計画を遂行する方が先だ。


「あー、コレな…」


はやる気持ちを抑えてなるべくいつも通りに声を出す。


(クソッ!俺の心臓は耳にでも移動しちまったのか?バクバクうるさすぎて自分がちゃんと喋れてるのか聞き取れねぇ!)


と、まぁそんな心配を他所にそれでも俺の口はちゃんと、と言うか寧ろ淀みなく動いてくれたようで。
見ると相手の手の中にはいつの間にかさっきまで俺が持っていた物が握られていて、その顔はーー満面の笑顔。

よかった。
どうやら上手く伝わったようだ。


姿見の前でそれを当てながらいろんな角度から眺めていたルーシィが俺を振り返った。


「そうね。こないだの仕事でお財布の中身も申し分ないし、買っちゃおうかな」


ーーこの、ナツが選んでくれたスカート。


姿見と俺を交互に見ながら、


「どお?似合う?」


なんて、普段なら自意識過剰にしか聞こえない発言を言われても今の俺にはそれをからかって笑い飛ばすまでの余裕などなく。


「似合う…カワイイ!」


気付けば俺はそんなコトを口走りながら千切れるんじゃないかってくらい、首を縦に振っていた。

しまった!と思ったが、もう後の祭り。

え、と言う声に恐る恐る顔を上げれば、リンゴみたいに真っ赤になったルーシィの真ん丸い目と目が合って、危うくこっちまで伝染しそうになった。
慌ててマフラーを引っ張り上げたけど、時既に遅し。
人体発火は免れたようだが、身体の内側が焼けるように熱い。
手遅れだけどないよりはマシだろう…とよくわからない言い訳から握り締めたマフラーに思い切り皺が寄る。


「あっ、や!今のは、言葉のアヤで…」
「…え…」
「わー!違う違うっ、間違えた!確かに言った!確かに俺、お前にカワイイって言ったっ!だから…泣くなよ!」
「べ、別に泣いてないわよ!」
「そ…そーか。ならよかった」
「う、うん…」


微妙な沈黙が流れる。
穴があったら今すぐにでも入れるが、それじゃダメだと思い直す。

俺は一つ深呼吸してから覚悟を決めるとこの作戦の最終段階へと取り掛かった。


「それ…」
「え…?」
「その色…ピンクベージュっていうんだってな。タグに書いてあった」
「へ?ああ、そうね。でもそれがどうかしたの?」
「ピンクってさ、俺の色だよな?」
「うん……ん?」
「ちょっと薄いけどさ、それもピンクだよな?」
「…あ、んた……なにが、言いたいの?」
「なぁ、ルーシィ」



さぁ、仕上げだ。

さっきより更に赤みを増したリンゴに向かって、俺はニッコリと笑ってみせた。


「俺色に染まってみねぇ?」


バカ、と小さく呟いたルーシィはもう、全部が全部俺の色で。
その後嬉しそうに微笑むもんだから、俺は今回の作戦が成功した喜びに浸る間もなく目の前の華奢な身体に抱きついたのだった。









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