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□本気のおままごと
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「頭が痛くて寒気がする。おまけに体も動かない」と伝えると「それは風邪ね」と返ってきた。



干したてだと言う、太陽と花の匂いがするベッドに押し込まれること数十分。
その間ナツは数年ぶりに味わう頭痛に悩まされながらも、ひたすら天井を睨んでいた。
そうすることで今にも遠退いていきそうになる意識を今だけは手放すまいと必死に繋ぎ止める。

高熱のせいで潤む両目に出来る限り力を込めていると、隣りでクスッと笑う気配がした。


「眠いなら寝ればいいのに」


見ると、ベッド脇の椅子へと腰掛けたルーシィが辛いんでしょ?と困ったように微笑んでいる。
ナツはそれに首を振ろうとして、けれどたちまち襲った頭の痛みに一瞬顔を強張らせると、口だけで否定した。


「…だ」
「やだ、って…でも、寝ないと治らないよ?」


驚くほど掠れた声でも彼女にはちゃんと伝わったらしい。
八の字眉の、心底心配そうな顔が斜め上からこちらを見つめている。
そのいつもより数段柔らかい口調と目線がなんだかこそばゆくて、ナツは早々に話題を切り替えた。


「リン…は?」
「今剥いてるけど…ほんとに食べるの?」
「…食う」
「眠いの我慢してまで?」
「べ…に、眠く…い」


別に眠くないーーしゃがれた声でなんとかそう言うと眠いくせに、と苦笑いが返される。
それでもナツは先程からルーシィが休まずリンゴを剥いてくれているのが分かっていたので、あえてそれには何も反論しなかった。

代わりに、ふと思いついた希望を伝えてみる。


「うさぎ…」
「はいはい。うさぎの形に切るのね」
「…うん」


分かっていたのか、ルーシィは櫛形に切られた皮付きリンゴの内一つを手に取ると、その赤い部分に器用に切り込みを入れた。
膝に乗せられたトレーの上で、ただの皮付きリンゴだったものが、赤い耳を着けたリンゴうさぎへと次々に姿を変えていく。

何時の間にかその一部始終に見入っていたナツの口から、素直な感想が零れた。


「なんか、ルーシ…母ちゃんみたい」
「えー、あたしこんな大きい子供産んだ覚えないんですけど」


やんわりとしたツッコミにはいつものキレはない。
自分で言っておきながら、まるで子供扱いな返答にナツは布団の中でグーにした拳をギュッと握り締めた。


「だれが、ルーシィの子供っつ…たよ」
「え?」
「ルーシ、が母ちゃんなら…俺は、父ちゃん…だろ」
「へ?…え、え?!」


手元のリンゴうさぎとこちらと、もう一度手元のリンゴうさぎに目線を走らせた後、ルーシィの耳と頬が瞬く間に染まっていく。
布団ごしに見える範囲だけだったが、首まで侵食している所を見るときっと全身真っ赤なのだろう。

予想以上の反応にナツがニッと口角を上げるとそれまでこちらに向いていた目線がふい、と逸らされてしまった。


「あんたね…」
「ん?」
「そういうこと…勘違いするから言わないでくれる?」


目を合わせないまま、どこか遠くを涙目で見つめるルーシィ。
その横顔にこっち向け、と念を込めながら、ナツは痛む喉に鞭打ってはっきりと言い放った。


「すればいいだろ」
「…へ?」


再び戻ってきた目線を今度は逃がさないようにとしっかり捉える。


「てか、勘違いじゃ…ねぇし」
「…そ、それって…」


その先を遮るように、ナツはにっこりと笑った。
表情筋を思い切り上げているせいでズキズキと頭が痛むが、負けてたまるか。


「うん。ま、そゆこと…だから」
「ちょ、なんかそれ、逃げてない?!」
「逃げて、ね…って。そんかわり…」
「…なによ?」
「かぜ」
「うん?」
「風邪、治ったら…本気でいくかんな」
「っ!」



望む所よーー。


おずおずと差し出されたリンゴうさぎをパクンと口に入れて、ナツはおうと満足気に目を閉じた。









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