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□ダブルなエイプリル
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「ただいま」
いつも通りに玄関扉を開けた瞬間、ルーシィはピシリと固まった。
「おかえり!飯にするか?風呂にするか?それとも…て、おい?!」
ニコニコ顔で放たれる言葉を最後まで聞かず、そっとドアを閉める。
閉めた向こう側から「なんで閉めんだよっ?!」と言う声がはっきりと聞こえてくるが、今はちょっと黙っててほしい。
買い物帰りだと言う大家さんとは先程はち合わせたばかりだ。
帰って早々苦情を言われるのだけは御免蒙りたい。
外側のノブを握り締めたまま暫く無言でその場に立ち尽くす。
できることなら今すぐにでも立ち去りたかったが、見上げた空には既に一番星が輝き始めていた。
逃げ場は何処にもないようだ。
「……はぁ…」
ルーシィはゆっくりと上げた片手で目頭を揉み込むと、深々と溜息を落とした。
静かにはなったが耳を澄ますと聞こえてくる不満の声を右から左へ流して、今しがた見た光景を再度頭の中でリフレインさせる。
あれは、ナツだった。
きっとまた自分が帰宅する前を見計らって窓から侵入したのだろう。
何度言ってもきかないものだから最近では注意するのも億劫になってしまった。
そのせいでますます入り浸るようになった彼にこうやって出迎えられるのもこれで何度目か。
もう、慣れてしまったけれど。
だから、それはいい。
現に誰も居ない部屋へ帰るのと、誰かが待っていてくれて、出迎えてくれる部屋へ帰るのとでは全然違う。
ということに、悔しいが最近気付いてしまったから…。
今日もそのつもりで「ただいま」と言ったのだから、それに関しては全く全然問題ない。
しかし、幻覚だろうか?
玄関先に立っていたナツが、フリフリのフリルをふんだんに施した可愛らしいエプロンを身につけていたように見えたのはーー。
…いや、そんな筈はない。
(久しぶりに泊まりがけの仕事だったし…疲れてるのね、きっと)
そのせいであんな信じ難い幻覚を見てしまったのなら自分はよっぽど疲れているに違いない。
こんな日は早くお風呂に入って寝てしまうに限る。
「よし!」
それまでの思考を断ち切るようにフルフルと頭を振ると、ルーシィは意を決してもう一度ドアノブを捻った。
「ガチャリ」という音と「ただいま」の声と共に、しかし今度は恐る恐るそこを開ける。
が、やはりそこに立っていたのは先程と何ら変わらない格好で腰に手を当て玄関先で仁王立つーー
「なにやってんだよ?入るなら早く入ってこいよ」
「………」
フリフリのフリルをふんだんに施した可愛らしいエプロンを身につけた、ナツの姿だった。