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□うさぎ化 中編
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「ヤバイかもしれない」
「どうしたの?」

うっかり口をついて出た言葉に足元のハッピーから返事が返ってきた。

なんでもないと首を振る。

が、本当は嘘だ。
なんでもなくない。
本当に、ヤバイかもしれない。

少し前に気付いた気持ち。
ーールーシィへの想いが、日に日に強くなっている。


朝、少し早めに着いたギルドでカウンターに座っていると後からルーシィもやってきた。
一直線にリクエストボードへ向かったふわふわ揺れる金髪を目で追いながら、身体ごと彼女に向く。
そのまま、ルーシィが振り向くまで見つめていたらしい。
いきなり目が合って、危うくジョッキを落としそうになった。

熱さの体制はできている筈なのに、顔が、全身が、胸の中が熱くてしょうがない。
きっと始めからこの気持ちは持っていた。
しかし、最近それに名前が付いたことでどうもいつもの調子が出ない。
自分が自分じゃないような。
前まで、どうやって接していた?
いつもルーシィをからかうと鉄拳制裁と共に返ってくる単語ーー乙女。
今の自分は、まさにそれではないか。
ーー恋する乙女。

(ガラじゃねぇな……てかその前に俺男だし)

ルーシィのことを考えるのは幸せだが、考えすぎてどんどん思考が乙女に近づいていく。
流石に自分でも気持ちが悪い。

半眼の眉間に皺を寄せながら、ナツはマフラーを直すフリをして鼻先に拳を近づけた。

ギルドを出る前、知らない間に掴んでいた手首の感触が香りと共にまだ残っている。
その花のような移り香が自分の手からすることにあとで気付いて、なるべく反対の手で薬草を摘んでいた。
時間の経過でもう微かにしか嗅ぎとれないが。

「………」

また彼女の事を考えていた自分にはっ、としてガラじゃないーーと、大きく吸った息を吐き出した時、

「あれ?」

何かに気づいたような声でハッピーが語尾を上げた。
つられて視線を上げると、遠くの方で木を背もたれにして座るルーシィを見付けた。

「ああ、ありゃあ、寝てるな」

風に乗って小さな寝息が聞こえてくる。
滅竜魔導士である自分にとって、このくらいの距離ならばはっきりと耳に届く。

「待ってる間に寝ちゃったのかな。おいら先に戻って報告してくるよ」

自分たちが集めた分の籠は場所的に屋敷から近かったため先に運んであった。
あとはルーシィの分だけ。

「ルーシィ起こしてすぐ行くわ」

翼を広げて浮き上がったハッピーにそう告げると「寝込みを襲っちゃダメだよー」と、とんでもないことを言いながら屋敷の方角へ飛び去って行った。

「んなことするかー!!」

振り返って叫ぶが、当然返事はない。

「はぁ…。ったく」

溜息を吐くのと同時に、後ろから「ん…」と声がした。

慌てて振り返る。
高性能の双眼に、長い睫毛がゆっくり開かれるのを捉えた。
続いて、茶色い瞳が周りの緑を映し出す。

しばらくキョロキョロとしていたその茶色が遠くの自分を見つけた瞬間ふっ、と綻んだ。

「っ!」

それだけの仕草なのに、また熱くなる。

(…まじで、ヤベぇな)

自分に向けられる、あの笑顔。
まるで、花が開いたような錯覚。

ーーヤバイくらい、ルーシィが好きだ。

早く彼女の側まで行きたくて、ナツは緩みそうになる頬を必死に引き締めてから早足に歩き出した。









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