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□交換日記を始めよう
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“お肉は買えたの?”
“買えなかった”
“え、なんで?”
“サイフ忘れた”
現在二人が居る場所はベッドの上。
肩を寄せ合いうつ伏せに寝そべる格好でナツが壁際、ルーシィが部屋側になるようにして、一つのノートを二人揃って覗き込んでいた。
「………」
サラサラと書かれた“ナツのおっちょこちょい”の文面に、当人の頬がプクッ、と膨れる。
一度半眼を向けてからなにやらザカザカと殴り書くと、ナツはフン、と鼻を鳴らした。
“そんなこと言うヤツにはプリンやんねーぞ”
途端、ルーシィの肩がピョコリ、と跳ねる。
“プリン?”
“サイフは忘れたけどポケットん中にコゼニ入ってた”
“買ってきてくれたの?”
“おう。ちなみにルーシィが食いたいって言ってたクリームのってるヤツ”
“きゃー!ほんとに?ありがとう!”
“まだやるなんて一言も言ってねーぞ”
“え……”
“うそだって、やるよ。もともとルーシィのために買ってきたんだし”
“ありがとう!でも…小銭じゃ一個しか買えなかったんじゃない?”
“いあ、キセキテキに二個買えた”
“ほんと?よかった!じゃぁ、あとで一緒に食べようね!”
“楽しみだね!”と付け足してから「ね!」と、ルーシィがこちらに振り向く。
そのとびきりの笑顔と目が合った瞬間。
「っ!」
ナツはまた、釘付けにされてしまった。
そしてまたーー
(ぅ、あー……また、かよっ…)
一瞬で、おとされた。
……と、言うのも。
ルーシィへの想いに気付いてからというもの、この花が咲いたようななんとも可愛らしすぎる笑顔に何回おとされたかわからない程自分の心臓は毎度毎度うち抜かれっぱなしだったのだ。
特に今みたいな、身構える暇もなく放たれた不意打ちはこの至近距離と合間って強烈なカウンターを生む。
正直たまったもんじゃない。
けれどそのカウンターを全て受け止めてきた今だからこそ分かることが一つ。
ーーそれは、ルーシィの気持ち。
自分と周りに向ける笑顔に微妙ではあるが、違いがあるということ。
特別な意味を持ったそれが、自分にだけ向けられている、ということを最近になって発見した。
自分の笑顔も特別な意味を持ってルーシィへと向いているように、ルーシィもまたーー
(俺と同じ気持ち…なんだろーな、きっと)
そこまで考えて、ナツは一度ふぅ、と息を吐いた。
早鐘を打つ心臓がどうにか落ち着くように、ととった行動だったが、ふと目に映った光景にそれが逆効果だったことに気付く。
ナツはむせそうになる息をなんとか飲み込みながら先程の考えを一部訂正した。
(きっとじゃなくて、絶対だろ、これ)
ナツの目線の先。
隣りでなにやら落書きし始めたルーシィの左手。
手持ち無沙汰なのか気付いていないのか、はたまた何かに触れていたいのかーー。
その左手はいつの間にかナツの黒衣の袖をチョコンと摘まんでいた。
瞬間、ナツの中でパンッ!と何かが弾ける。
と同時に、自分の意思などまったく無視な所で勝手に動く手。
が、スラスラと走るペン先を眺めて、ルーシィが首を傾げた。
しかし、次第にその顔色を変えていく。
そこに書かれた、
“オレのことどう思ってる?”
の、一言と。
その下にもう一つ書かれた、
“オレはお前が好きだ”
の、二言目が書き終わる頃には、ルーシィの全身は茹でダコ状態だった。