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□交換日記を始めよう
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「日記書いてたのか?」
「ぎゃっ!?」


突如、自分しかいない筈の室内からーー正確には背後から聞こえた声にビクッ、とルーシィの肩が上下する。

振り向くと、あまりにも近すぎる距離でこちらの肩越しから机の上を覗きこむ、どアップ。
と、目が合った。


「ナっ?!」
「ぎゃっ、て、さすがルーシィだな!」


おもしれぇ反応!といたずらが成功した時によく見せる顔でニカッ、と笑うナツ。
その額にペシッ、と軽い平手をおみまいしたルーシィは捻ったままだった上半身を正面へ向き直した。


「……なにがよ。てか、あんたいつから居たのよ」
「んー?けっこー前からいたぞ」
「え、全然気付かなかった」
「そーなのか?ちゃんと声もかけたんだぞ?」
「なんて?」
「ドロン?」
「忍者かっ!」


先程から乗せられている右肩の熱に身じろぎしながら、そんなんじゃ気付くわけないでしょ!とノートを睨む。
あ、そっか!と見なくても分かる、本気で今気付きました、みたいな顔をしたであろう相手に半眼を向けてやろうかと思ってーー

やめた。


今、顔を見られると厄介だ。


「………」


火照った顔を隠すように俯く。
ルーシィは開いたままだったノートをパタン、と閉じると、思いきり吸った息を静かに吐き出した。

視界の端でふわり、と桜色が揺れる。


「ん?書いてたんじゃないのか?」
「まだ。これから」
「これから書くのか?」
「うん」
「ふーん…あ、じゃぁさ、一緒に書こうぜ!」
「一緒に?」
「おう!最初ん時みたいに。あれ面白かった」
「んー、まぁ、たまにはいいかもね」
「よっしゃ決まり」


す、と離れた距離に残念だ、と思う反面胸を撫で下ろした。
これ以上くっつかれたら、きっともたない。
いろんな意味で。


そう言えば、日記に今日の夕飯はローストビーフがいいとかなんとか書いてあったっけ。
肝心の肉は買ってきたのだろうか?



「そう言えばあんた、肉……」


ふと思い出して、振り向いて。
その背中を見つめてーー


「っ…?!」


ギョッとした。


詰まる感覚のする声帯からなんとか声を絞り出す。
震える指先を、斜め下へと向けた。


「ナツ、あんた……なに、やってんの?」
「ん?ルーシィも早くこっちこいよ」
「は?や、ちょっと待っ…え?!なっ、ななななんで!?」
「日記書くんだろ?」
「に…?ぁ……あぁ、日記ね…って、そこで?!」
「当たり前だろ、こーゆーのは足伸ばして書いたほうがいいって昔から決まってんだよ」
「………あぁ…そう」
「ん」


さも、そんなん常識だろ?と言わんばかりにふんぞり返るナツの肢体はもう、何を言ってもそこから一歩も動く気はないのだろう。


チョイチョイ、とこちらに手招きするその顔はにっこり笑顔。


(う……)


本当に自分はこの笑顔に弱いらしい。
これも惚れた弱みなのか、この笑顔の前では何も反論できなくなってしまう。


(ほんと……あんたには負けるわ)



はぁ、と重い溜息を吐きながら椅子から立ち上がる。
渋々といった表情とは裏腹に、ルーシィの踏み出した一歩は軽かった。








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