ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇

□その手を必ず
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規則正しく叩かれる木魚の音と低く広がるお経を読む声。

線香の香りが漂う中、人混みを避けて外に出た紫苑は肩の荷を降ろすようにして深く息を吐いた。

つい先日、6年間小学校で紫苑のクラスの担任をしていた教師が殺され、その葬儀に参加すべく紫苑は久し振りに実家に帰ってきていた。

高校の進学の際に衝突してから未だにすれ違ったままの“母親”に会うことに抵抗があったが、ホテルに泊まるわけにもいかないので仕方がなかった。


「憂鬱……」


葬儀の暗い雰囲気も助けて紫苑の気分は重かった。

“母親”との重いコミュニケーションと葬儀の場で知人に会わないように気を張っていたため、神経の摩耗がひどかった。


「紫苑ちゃん?」


後ろから名前を呼ばれて紫苑は振り向き、すぐさま笑みの形に口元を歪める。

金田一たちが見ればすぐに作っていると見破るだろうその笑みに相手は気づくことなく、振り向いた紫苑に嬉しそうに声をかけた。


「やっぱり紫苑ちゃんだ!久し振りだね」

「斉藤先輩……お久しぶりです」

「先輩なんてよしてよ。昔みたいに『聡介くん』って呼んでくれていいんだよ?」

「いや、そういうわけには……」


そう言って微笑んでくるその男は、斉藤聡介という紫苑の実家の近所に住む2つ上の青年だった。

ルックスも良く、爽やかで優しい彼は異性からよくもてる。

紫苑自身も近所に住んでいるのが縁で、よく面倒を見てもらったりと関わりが深いが、紫苑はある時期からとある理由で斉藤との間に一線を引くようになった。

紫苑は斉藤の要望に応えることなく、内心早くこの場を立ち去りたいと考える。

しかし外見は小中学校時代の自分を装う。


「それにしても君が違う高校に行くとは思わなかったよ。うちの高校、レベル高いのに」

「……まぁ、色々ありまして」


主な理由は斉藤にあるのだが口にはしない。


「にしても大学に進学して県外に出て、葬式のために帰省する事になるとは思わなかったよ」

「同窓会は中止ですかね」

「いや、同窓会は予定通り行うらしいよ。そうだ、紫苑ちゃんも参加するだろう?4時に君の家に迎えに行くよ」

「え、あ、はい……わかりました。ありがとうございます」


前日に帰宅した際に同窓会があることを知っていた“母親”に参加するように言われていたため、嫌々ながらも参加するつもりではあったが、こっそり会場に行って誰にも気づかれないうちに抜け出そうと考えていた。

斉藤と一緒に行くことで当初の予定が崩れることを悟って、紫苑の作り笑顔が心なしか引きつった。


 
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