ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇

□魔術列車殺人事件
2ページ/22ページ





剣持警部の呼び出しに応じてファミレスに向かう金田一たちと、ファミレス近くでばったり会った紫苑は誘われるまま同席していた。


「一昨日警察庁宛にこんなフザケた小包が届いてな!!」

「脅迫状在中!?」


剣持が色々と説明している中、紫苑が最初に手にとっていじる。

剣持がちょうど、科警研が開けることができなかったと説明したとき


カタッ

「あ」

「え」

サッサッサ

「………………」

「……雪峰くん」

「なんですか」

「今、そのからくり箱開かなかったか?そして冷静に閉めなかったか?」

「何を言ってるんですか。気のせいですよ」


思ったより簡単に開いてしまい、何故か慌てて閉めてしまったことは言わないでおく。

そんな中


カタッ

「開いたよ、オッサン!カンタンじゃん!そりゃあ雪峰もビビるよ」

「ナニーー!!」


紫苑が閉めてしまった箱を再び金田一が開けると、剣持は頭を抱えてぶつぶつ言い出した。

それに同情の眼差しで見ていると、箱の中身を見て美雪が短く悲鳴をあげたのを聞いてそちらに向いた。


「ねじれたマリオネット!?」

「!………悪趣味ね」


金田一の手にもたれたマリオネットを見て紫苑は吐き捨てるように言った。


『来たる4月28日
北海道は死骨ヶ原湿原を通る
列車に魔法をかけた
死と恐怖の魔術を堪能されたし

地獄の傀儡師』


そんな中、剣持が箱の底に書かれた脅迫文を読んだ。


「死骨ヶ原…………」

「紫苑ちゃん、知ってるの?」

「えぇ、その場所のホテルでその日、マジックショーがあるの。行きたかったんだけど、さすがに女子高生が北海道に1人旅はマズいでしょう」


数日前に見たマジックショーのポスターを思い出しながら美雪の質問に答えた。

その時、唐突に金田一が剣持に尋ねる。


「そういや、オッサン。明智警視はどうしたんだよ」

「やっこさんは今日から休暇でな。すまんが金田一、俺と一緒に来てくれ」

「それじゃあ私も付き添います」

「ボクも!先輩の活躍をちゃんとおさめないといけませんから」


剣持からの依頼を受けた金田一にいつものメンバーが同行を申し出る。
そんな中美雪が紫苑に声をかける。


「紫苑ちゃんはどうする?」

「行くけど旅費は自分で払うよ。マジックショー観たいだけだし」

「エンリョするなよ雪峰!こういうのは警察が出してくれるんだぜ」

「そうだとも、遠慮はいらん。金田一の分の旅費を雪峰くんにまわせばいいんだからな」

「そうそう。それに金田一センパイだけじゃ不安な要素ありますしね」

「オッサンも佐木も余計なこと言いやがって」


紫苑は3人の会話を聞いて少し頬をゆるめると、お言葉に甘えることにした。








〔函館・旭川経由、死骨ヶ原行き寝台特急――『銀流星』1号はまもなく発車いたします――…〕


「間にあった〜〜!!」


目当ての寝台列車に出発ギリギリになんとか駆け込んだ金田一が声をあげる。

金田一よりも早めに乗車した紫苑も階段を駆け上ったためうっすらと汗をかいていた。


「あたし、寝台列車ってはじめてー!!」

「ボクも♪」

「あのな〜〜お前ら、もしあの脅迫状がマジならこれから先何が起こるかわかんねーんだぞ!」

「金田一。そーゆーお前こそ、その本は何だ!?その本は!!」

「い…いやあ〜〜せっかくの北海道だしぃ」

「ったく、ケーサツの金だと思いやがって。雪峰くんの落ち着きを少しは見習わんか」

「オッサンまだまだわかってないな〜こう見えて雪峰は俺ら以上に内心はしゃいでるんだぜ」

「え!?」

「以上かどうかはわからないけど、まぁ否定はしない」


脅迫文が来たのにも関わらず、旅行気分の抜けない会話をしつつ目的の個室に向かう。


「あった!ここだな」

「ちょっと金田一、ここじゃない」


金田一が間違っていることに気づいて紫苑が止めにはいるが金田一は気づくことなく扉を開ける。

その個室にはたくさんの段ボール箱があり、その中いっぱいにバラの花が詰められていることを金田一の言葉から知る。

案の定、乗務員に間違いを指摘され、そのまま正しい個室に案内される。


「A寝台とはえれー違いじゃねーか」

「がまんしろ金田一。これしかとれんかったんだから」

「あの、剣持さん。私今から少し席を外します」

「どうした雪峰くん?」

「ちょっとお手洗いに。ついでに車内を散策してみようかなっと思うので。すぐに戻ります」

「おー、気ぃつけてな」


個室を出て、1人で車内を思う存分散策する。

顔にはでていなかったが、みんなと同様 紫苑にとっても寝台列車は初めてで、内心そわそわしていたのだった。

一通り見て回り、腕時計を見るとそこそこの時間が経っていた。


「そろそろ戻ろうか」


少し小走りに戻っていくと、自分たちの個室のある車両から仮面をかぶって不思議な衣装を着た人物が出てきた。

紫苑は一瞬、変な格好をした人だと思ったが、幻想魔術団が車内でパフォーマンスをしてくれることを思い出した。


「あー見逃したか……」

「………………」


紫苑の聞こえるか聞こえないかの小さな声に気づいたらしいその人物は、黙って近づいてきて、どこからともなくカードを取り出すと、なめらかな動きで手首を返し一輪のバラに変えた。

差し出されたそのバラは、緋色に近い赤いバラだった。


「……陰謀…………」

「!?」

「あ、気にしないでください。ちょっと花言葉に詳しいだけで。マジックに花言葉は関係ないですよね」


仮面の人物が、紫苑の言葉に反応したのを敏感に感じ取り、慌てて弁解する。

しかし相手には紫苑の慌てた様子のない外見通り、冷静に淡々と言ったように見えたらしく、じっと紫苑から視線を外さない。


(こんな時に金田一たちがいたら誤解もとけるんだけどな……それにしてもいつまで見てくるんだろ)


さすがに自分のことを推し量るような視線に耐えきれず、紫苑はバラのお礼と軽い会釈をしてその場を立ち去った。


先ほどバラを紫苑にあげた人物は仮面を外して、遠ざかる後ろ姿を見ながらニヤリと笑みを浮かべた。


「ただいま……美雪、それ」

「あ、紫苑ちゃんおかえり。これさっき幻想魔術団の人がパフォーマンスをしてたの。紫苑ちゃんも、もらったのね」


個室に戻ると美雪が床に落ちたバラの花を拾っているところだった。

素敵だったと感想を言う美雪の手のひらの上、紅いバラの中に混じった一輪の、自分のものと同じ緋色のバラに気づいた紫苑は美雪の言葉に曖昧に返事をするだけだった。








 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ