××はこの手で――
□夏の出会いと分岐点
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From:雪峰 紫苑
Title:夏はまだまだこれからだぜ!
8月××日にじっちゃんちに集合な!
マジック道具もってきて
<ごめんなさい。目を離したすきにはじめ君が勝手にメールを打ってて…>
「雪峰さんらしくない文章で驚いたけど、彼だったなら納得だよ」
電話の向こう側からの仲良くしているクラスメイトの慌てた声に高遠は小さく笑った。
冷房の効いた部屋の外からも電話の向こうからも蝉の声がかすかに聞こえる。
「いま、金田一さんの家にいるの?」
<うん、少しの間お世話になってて。今はじめ君の宿題の面倒見てる。それで、あっちょっと>
<遙一、今週の金曜日ひま!?>
クラスメイトの声から元気な子どもの声に代わる。
「はじめ、久しぶり。元気そうだね」
<おう、元気元気!遙一は?>
「元気だよ。雪峰さんからのメール、はじめが送ったんだって?」
<そう、それでさ>
高遠がちらりと確認したカレンダーが今週の金曜日は夏休み最後の平日であることを教える。
「金曜日なら空いてるよ。どうかしたのかい?」
<じゃあ、ジッチャンちで遊ぼうぜ!いろいろ準備してあるからさ!>
顔が見えなくても目を輝かせていることが容易に想像できて高遠はつられて微笑む。
<急でごめん。はじめ君がどうしてもって聞かなくて…宿題も手を付けてくれない状態なの>
「大丈夫。雪峰さんもいるの?」
<ええ、その日までお世話になる予定だから>
<誰か友達連れてきていーぞ!>
遠くから元気な声が聞こえる。
「耕助さんは?」
<ぜひ来てくださいって。にぎやかなのはいいことだからって言ってるから気にしないで>
「そっか。当日何か持って行った方がいい物とかある?」
<マジック道具!>
<はじめ君!何か特別に必要なものとかはないけど、バーベキューをするから飲みたいものとか食べたいものを持ってきてくれれば大丈夫。はじめ君がお肉いっぱい食べちゃうから、お肉ないのは困るとかあれば持ってきてくれればいいかな>
「ふふ」
<?何かおかしなこと言った?>
「いや、雪峰さんの中では僕は肉をたくさん食べる人の印象なんだなって」
<そういうわけではないんだけど……男子高校生っていっぱい食べるイメージがあるから>
「小説知識?」
<否定はしない>
「男子高校生の食べる量も色々だと思うよ。たくさん食べる人もいるけど、僕は一般的な量。でもバーベキューに肉がないのはさみしいだろうから何か持って行くよ。父さんのお中元に色々あった気がするし」
<高遠くんの所にくるお中元って高そう……無理しない程度にしてね>
「わかったよ。じゃあ当日に」
<うん。あ、集合時間はあとでメールする。それじゃあ>
電話を切って、カレンダーに印をつける。
「ナターシャ、少し相談したいことがあるんだけど」
そう言いながら部屋を出た高遠の声は少し弾んでいた。