××はこの手で――

□夏合宿
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「合宿ですか」


冷房目的か、心なしか利用者が増えた放課後の図書館のカウンターで紫苑は小首をかしげながら言った。


「そう、合宿」


その言葉を肯定してカウンターをはさんで紫苑の向かいに立っていたつばきはニコリと笑う。

図書館を利用するためでなく紫苑を探しに来たつばきは、今月末、夏休みに入ってすぐのマジック部の合宿に来ないかと紫苑に声をかけた。

マジック部でもない自分がなぜ、という紫苑の表情につばきは謝った。


「急に言われても困るわよね。合宿って言ってもただのお泊まり会じゃなくて、8月のマジック大会に向けての強化合宿なんだけど」

「それは一度、高遠くんに聞いたことがある気がします」

「内容とかは?」

「いえ、そこまでは…」

「3泊4日で、ちょっとした劇場がある施設で舞台使ったりしながら本番に近い状態で大会でやるマジックを決めたり、練習したりするのよ」

「ずいぶん本格的ですね」


思いのほかしっかりした内容に紫苑は感心する。

でしょうと嬉しそうにしているつばきに紫苑はさらに首を傾げた。


「でも、そんな大事な合宿にマジック部じゃない私をどうして誘うんですか?」

「毎年、アシスタント役と時間管理役として1人部外の人を呼んでるのよ」

「時間管理…?」

「練習時間になると時間を忘れてのめりこんじゃうことがあるから、ストップをかけてくれる人が必要でね。去年までは卒業しちゃった先輩が友達を連れてきてて、今年は新しい人を呼ぶ必要があって…」

「姫野先生は引率してないんですか?」


一番適任な先生の存在を指摘すると、つばきは周りを確認して先ほどまで会話していた声をさらに小さくして紫苑にこそりと囁く。


「実は毎年、姫野先生が副顧問をしている吹奏楽部の合宿とかぶってるのよ。一応定期的に先生に連絡をしているし、今まで問題も起こらなかったから黙認されてるんだけど毎年引率の先生いないのよね」

(問題があるのでは…?)


つばきの囁きを聞いて紫苑は少しだけ眉をよせた。


「で、先生もいないし、そうなるとマジック部で女子が私だけになっちゃうからアシスタントは女子に来てほしくって!」

「…私でいいんですか?」

「もちろん!」


カウンターから身を乗り出してつばきはうなずいた。


「クラスメイトに頼もうかと思ったんだけど、みんな自分の部活や勉強に忙しくって……先輩は受験意識してるから頼むわけにもいかないし。雪峰さんなら部活に入ってないし、成績もいいからきっと大丈夫だと思って」

「成績?大丈夫?」


唐突に出てきた成績の話に紫苑は合宿とのつながりが分からずに聞き返す。


「期末考査。もちろん合格点取らないと合宿どころじゃないからさ。その点は雪峰さんなら問題ないでしょ?」



 
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