××はこの手で――

□梅雨と雨宿り
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放課後、教室からまっすぐ帰宅しようとしていた紫苑は生徒玄関から空を見上げた。

どんよりとした雲は重々しく、今にも雫が落ちてきそうだった。


(降る……かしら?)


梅雨入りが発表されたニュースを見ていた紫苑の学生カバンの中には折りたたみ傘が潜んでいる。

眉をよせながらも、足早に学校を出る。

降る前に家に帰れることを願いながら歩く紫苑は、しばらくしてため息をついた。

天に向けた手の平には1つ2つと雨が落ちてくる。

紫苑はカバンの中から傘を取り出し、開く。

ポツポツと雨が傘をノックする。

その音に耳を澄ましながら、紫苑は先程とは違い、ゆっくりとした足取りで歩き出す。

だんだんと激しくなっていく雨を気にすることなく歩いていると、視界の先に見知った姿を見つけた。

少しだけ速度を上げて近づき、声をかける。


「雨宿り?」

「雪峰さん。うん、傘を忘れてね。この雨だとずぶ濡れになるから弱まるまで待とうかと思って」

「確かに、この雨だと、ね」

ザアザアと降り続ける雨を見上げながら紫苑が言う。


「家、遠いの?」

「まあ。バス通学なんだ」

「そうなのね」


短い会話のやり取りが続く。


「バス停ってすぐそこよね?」

「うん。そうだけど」

「停留所まで傘、入る?」

「え、悪いよ。狭いし、僕はもう濡れてるし、雪峰さんも濡れてしまう」

「早く温まらないと風邪ひくでしょ?私は多少濡れるぐらい気にしないわ」


何度か断るも引かない紫苑に折れた高遠は、差し出された傘に入る。

次のバスの出発時間を確認し合い、余裕があることを知った2人はゆっくり目的地へ向かう。

雨が降り注ぐ住宅街には人はまばらだった。

雨音が響く道を2人はたわいのない話をして歩く。

紫苑が最近読んでいる本の話。

マジック部の最近の出来事。

霧島が近づいている中間考査に震えている話。

そんな話をしている時だった。

後ろから子どもの走る足音がしたと思った瞬間、紫苑は後ろから足に衝撃を受けて立ち止まった。

高遠もそれに合わせて立ち止まり、紫苑の後ろに視線を向ける。

そこには紫苑の腰ほどの背の高さの、黒いランドセルを背負ったびしょ濡れの子どもがいた。


「紫苑姉ちゃん!」

「その声ははじめ君…」


名前を呼ばれた少年はにしし、と笑って前に回り込む。

戸惑う高遠に紫苑は少年を紹介する。


「この子は金田一一くん。私のちょっとした知り合いなの」

「よろしくな!」

「よ、よろしく」


戸惑いが隠せないながらも挨拶をかわす。

特徴的な太い眉をした少年は傘を持っていない方の紫苑の手を引いた。


「傘忘れたからジッチャンの家まで送ってよ!」

「もしかしなくても、この雨の中、そのまま走ってきたの?」

「そう!」


そう言いながらもグイグイ引っ張る少年にため息をついた紫苑はふと思い当たって高遠の方を見る。


「今日、この後に何か予定とかある?」

「?いや、ないけど…」

「じゃあ、雨宿りしましょう。さっきの所より広くて暖かい所で」


 
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