××はこの手で――

□五月祭
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学校には、季節ごとの大きなイベントの他にも、定期的に行われるイベントが存在する。

それはイベントというには大げさすぎるかもしれないが、当の学生は真剣そのものであり、その後のある一定期間の生活を左右する可能性も秘めている、決して小さいとは言いきれない出来事。

そう、席替えである。

もちろん、勉学に厳しい秀央高校のトップを飾る特Aクラスにも席替えは存在する。

最初のそれは学校生活も慣れ、4月が終わろうとしている頃だった。





「順番にくじを引けよー」


くじの結果を見てざわつく教室に気の抜けた先生の声がもみ消される。

そんな先生が持つ箱から、紫苑は紙切れを引いた。

書かれている番号を確認して黒板に視線を向ける。

簡易的に描かれた教室の机の配置にランダムに振られた番号を探す。

番号を見つけた紫苑は早速移動を始める。

校庭側の窓から2列目の一番後ろの席、それが紫苑の新しい席だった。

荷物を置いて椅子に座る。

いまだに移動していない生徒やくじの結果を見て一喜一憂している生徒、友達と近くの席になって喜んでいる生徒を眺めながら紫苑は窓から流れてくる風に目を細めた。

普段、あまりない喧騒に耳をかたむけながら目を閉じるとほぼ同時に、窓から差し込んでいた陽光が遮られる。

顔を上げると隣の席、窓側に誰かが立っていた。

逆光に目を細めながら相手を確認すると紫苑はそっと声をかける。


「隣の席ね。よろしく高遠くん」

「よろしく、雪峰さん」


言葉を交わし合った2人は、これ以上会話を続けることなく、高遠は窓の外に視線を投げ、紫苑は机から本をとりだして読書を始めたのだった。


 
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