××はこの手で――
□出会い
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桜の花びらが舞い散る。
たくさんの人でにぎわう校門前。
紫苑は真新しい制服に身を包んで、カメラをまっすぐに見つめた。
「はい、チーズ」
パシャッ
「…待って、目、つむったかも!?」
「んー…うん。大丈夫だよ」
「だって、お母さん」
「本当に?」
「ああ。2人ともきれいに撮れてるよ」
満開の桜が風に揺れる4月。
雪峰紫苑は秀央高校に入学した。
今日は入学式で、新入生とその保護者で校門前はにぎわっている。
校門前の入学式の立て看板の前で、紫苑と一緒に写真を撮った母の加奈子が、カメラを持っている父の修司に駆け寄る。
「じゃあ、次は修司の番ね。ほら並んで並んで!」
「僕はいいって言ってるのに…」
「せっかくなんだから!撮らないと損よ」
加奈子が強引に修司からカメラを奪い取ると、紫苑の横に立つように促した。
修司は言われた通りに紫苑の隣に立ち、カメラを見つめる。
「撮るわよー。はい、チーズ」
シャッターをきった加奈子は、液晶で出来栄えを確認して満足気ににんまりと笑った。
「さすが私ね。よく撮れてる」
「それは良かった」
「でも、せっかくなら3人で撮りたいわね」
「三脚はないよ?」
三脚持ってくるの忘れてしまったから、と少し申し訳なさそうにつぶやく修司をそっちのけで、加奈子は少し離れた所に立っていた少年を目ざとく見つけて声をかけた。
「ねえ、君!」
「……あ、僕ですか?」
「そう、君!」
加奈子に急に声をかけられた彼は、紫苑と同じように真新しい制服に身を包んでいた。
黒髪のおとなしそうな少年に、加奈子が持っているカメラを差し出した。
「時間あるかしら?写真、撮ってもらいたいんだけど」
「え?」
「すぐ終わるから。あ、シャッターはこのボタンね」
「え……はい」
加奈子の勢いがある遠慮のない頼みに、少年は思わずといった様子でカメラを受け取る。
強引なやり取りにまたやってると紫苑は小さくため息をつき、修司は少し申し訳なさそうに笑った。
少年は、加奈子が並んだのを確認すると、カメラを構えて写真を撮った。
撮り終えると、修司がカメラを受け取りに少年のところに向かう。
「ごめんね。加奈子さんが無理やり頼んでしまって…」
「いえ。別に」
「ねえ、あなたも新入生でしょ?」
「はい」
加奈子の質問に少年は素直に答えた。
それを聞いて加奈子はにこりと笑う。
「ここで話したのも何かの縁だし、君の写真も撮ってあげる!親御さんは来てる?」
「い、いえ……写真なんて、いいですよ」
「そっか…1人だと寂しいわね……じゃあ、紫苑と一緒に撮りましょう!」
「お母さん、話、聞いてた?」
遠慮する少年の言葉を全く聞くことなく、加奈子は名案だというように手を叩く。
加奈子の突っ走り具合に紫苑は口をはさむが、それを無視して加奈子は紫苑と少年を立て看板の前に有無を言わせずに立たせた。
「ほら、笑って!」
「撮るよー。はい、チーズ」
パシャリ
勝手に盛り上がっている修司と加奈子の様子を見ながら紫苑はまた小さくため息をついた。
そして、隣に立っていた少年を見る。
少年はあれやこれやと流されていったこの状況に困惑している様子だった。
「ごめんなさい。私の両親が」
「え」
「娘の入学式に、本人よりもはしゃいでる親なんて引いたでしょ?」
「いや……無関心よりもいいと思うよ」
紫苑の言葉に少し表情を硬くした後、少年は紫苑の両親を見て少しうらやましさがにじんだ目をした。
紫苑は静かにそれを見つめる。
「あの写真、焼けたら渡すわ。私は雪峰紫苑。あなたは?」
「……僕は高遠」
風が吹く。
桜の花びらが雨のように降ってきた。
少年の黄色の瞳が紫苑を映す。
「高遠遙一」