ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇 side story
□夏の終わり
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冷房の効いた店内。
テーブルには3人分のソフトドリンクと積まれた教材。
プリントに向かう男子高校生と、その隣でため息をつきながら教科書を持っている女子高校生。
その向かいに座って2人の様子を見ながら、紫苑はオレンジジュースを飲んでいた。
効きすぎて寒いぐらいの店内で汗を流しながらプリントを睨んでいる金田一が、とうとう持っていたシャーペンを放り投げた。
「モーダメだー!!間に合わない!」
「あともう少しなんだから、頑張ってはじめちゃん」
「限界なんだよぉ……」
「そんな事言わないで。これを提出しないと留年決定って先生に言われたじゃない!」
「じゃー美雪の写させてくれよ」
「ダメよ。紫苑ちゃんにも資料探し手伝ってもらったんだから!ちゃんと自分でしなさい」
「えー…」
一連の会話を聞いていた紫苑は、ストローから口を離して言う。
「こんな最後の最後までため込んでるのが悪いのよ。早めに手を付けてたらまだマシだったでしょうに」
「忙しかったんだってぇ〜」
「それは分かってる。口より手を動かして」
「へ〜い」
「………金田一がこの調子だと、アレは別の人探したほうがいいかな」
「アレって?」
紫苑の指したものに興味を持った美雪に、紫苑はカバンの中から紙切れを出した。
10枚ほどあるその紙には、でかでかとお食事券100円分などと書かれていた。
「明日の夜にある花火大会の出店に使える券。図書館のお手伝いしてたら職員の人にもらったの。食事券だけじゃなくて金魚すくいとかで遊べる券もあるみたいだったから、よかったら金田一たちで使ってもらおうかと思って。でも、金田一がこれじゃ行けないね」
「明日の花火大会って毎年夏休みの終わりにあるあの大規模の?」
「そうだね」
「え!行きましょう!私、今年はお祭りとか行けなかったから楽しみ!浴衣出しちゃおうかな」
「え、俺は?」
行く気満々の美雪に金田一が恐る恐る声をかける。
美雪はそんな金田一を見て当然だというように言った。
「宿題が終わってないはじめちゃんはもちろん留守番よ」
「なっ!?」
衝撃を受ける金田一に、紫苑はやれやれと思いながら言う。
「金田一も花火大会に行けるように頑張ればいいじゃない」
そう言い終わらないうちに、金田一は今まで以上の集中力で宿題に取り組む。
黙々とやっている金田一を見て、美雪と一緒に紫苑は小さく笑った。