ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇 side story
□キスをしないと出られない部屋
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ver.高遠遙一
『キスをしないと出られません』
「………………」
「そんなに紙を睨んでも状況は変わりませんよ。紫苑さん」
ソファーにローテーブル、テレビだけのシンプルで小さな部屋。
いつの間にか連れ込まれたこの部屋には紫苑と高遠の2人だけしかいない。
唯一外に出られる手段であるドアは、押しても引いてもびくともしなかった。
ローテーブルにおかれていた、この部屋から出る条件の書かれた紙を両手で持ち、穴が開きそうなほど見つめながら震えている紫苑とは対称的に、高遠は余裕の表情でゆったりとソファーに腰かけていた。
「調べて回ったところ、我々を観察することを目的としているらしいカメラ複数台が隠されいるだけで鍵も何もありませんでした。それにどうやらドアは電子ロックのようですから、大人しく指示にしたがうという選択しかないと思いますが?」
「……」
「そんなに険しい顔をしないでください」
「高遠さんが良くても私は良くないの…………いっそキスしてるふりをして切り抜けるか」
〈ふりは認められません〉
「!」
「おやおや」
紫苑の一人言に応えるようなアナウンスがして紫苑は狼狽え、高遠は面白そうに笑う。
「どうやら逃げは許されないようですね」
わなわなと震える紫苑に高遠はどうします?といたずらな笑みをうかべて尋ねる。
高遠は内心この状況をかなり楽しみ、この状況を作った人間を内心ほめていた。
二人っきりであることはもちろんのこと、部屋から脱出する条件も悪くはない。
こうやって狼狽える紫苑を観察して、しばらくしたらことを進めればいいと考えながら紫苑を見ていた。
そんな高遠の思惑など微塵も知らずに、アナウンスを聞いた紫苑は紙を持ったまま固まってしまっていた。
ふりはダメ。
カメラがある限りそこからは逃れそうにはなく、だからといって高遠に任せてしまうとどうなるかわかったものじゃない。
しばらく硬直したままぐるぐると思考していた紫苑は持っていた紙を握りしめると意を決したように顔をあげた。
そしてソファーに座る高遠の前に立つ。
「どうしました?」
頼りにきたのかと思いながら視線をあげた高遠は、紫苑の顔を見て目を見開いた。
赤く染まった頬に熱っぽく潤んだ目。
恋する乙女のような顔の紫苑に、高遠は驚いて見上げることしかできなかった。
「紫苑…さん?」
「高遠さん……」
紫苑は高遠の両肩に手を置くと、高遠の足の間に膝をついて顔を近づけ
キスをした。
少しだけ長い触れるだけのキスをした 紫苑は恥ずかしさからかそのまま顔を伏せる。
「…………紫苑さん、あなたは」
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カチャン
高遠が声をかけようとしたと同時にドアのロックが解除された電子音が鳴る。
それを聞いてバッと顔をあげた 紫苑の表情はつい先程までのが嘘だったかのようないつもの無表情だった。
「開いたみたいね。よかった」
そう言ってさっと立ち上がり、ドアを開いて高遠の方に振り返った。
「何してるの?こんなところさっさと出るわよ」
「ちょっと待ってください。その、確認したいのですが」
「なに?」
「先程のキスは……」
「あ、あれ?あれは演技よ。私からただただキスしただけだと何回してもダメかと思ったから。表情とかに深い意味はないから」
「演技……」
「先に出るわよ?またロックされたら嫌だから」
なかなか放心状態から抜けられない高遠を急かしてから、部屋を出るために視線を前に戻した紫苑がほんの少しだけ顔を赤くして唇に触れていたことを高遠は知らない。