ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇 side story
□ハッピークリスマス
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12月
日が落ちた街はキラキラとした電飾で彩られ、たくさんの人々はそれを眺めて笑顔をこぼす。
毎年のように繰り返される光景を特に何の感想もなく、ただ眺めていた紫苑は寒さにマフラーを口元まで上げた。
なかなか変わらない信号に小さくため息をついた時、隣に黒い人が立って声をかけた。
「こんばんは、紫苑さん」
「高遠さん」
隣を見上げると黒いコートに身を包んだ、変装をしていない高遠が立っていた。
「あなた、なんでこんなところにいるのよ」
「私だってたまにはこのような街の雰囲気を堪能したくなる時もあります」
「また変装もしないで……それに」
紫苑は隣に立つ高遠をジッと見る。
コートを着ているとはいえ、高遠はマフラーも手袋もしていなかった。
それを見てふるりと体を震わせると紫苑は高遠に聞く。
「コートだけで寒くないの?」
「そうですね。それほど寒いとは思いませんが……」
「そうなの?(寒さに強いのね)」
確かに隣に立つ高遠は寒いと感じているようには微塵も見えなかった。
少しうらやましく思いながら紫苑は手袋をした手をこすり合わせた。
それを見ていた高遠は少し考えると、紫苑の手をつかみ、その手から手袋を取った。
「ちょっ何するのよ!」
「まあまあ紫苑さん。信号が変わりましたし、進みましょう」
そう言いながら高遠は手袋を取った紫苑の手を握ると、そのまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。
あまりのことに紫苑は動揺するが、人の流れを遮るわけにもいかずそのまま歩き出す。
冷えていた自分の手よりも冷たい高遠の手に手を引きそうになったが、高遠の指が絡み合ってできなかった。
「紫苑さん、温かいですね」
「高遠さんの手が冷たいだけよ」
どことなく嬉しそうな高遠にそう言いかえすと、紫苑は少しだけ強く手を握りしめた。