ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇 side story
□mother's day
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陽気がほど良い昼下がり、紫苑は来客を告げるドアベルで小説から顔を上げた。
「誰だろ」
玄関まで向かい、ドアの外をのぞき窓からそっとのぞく。
「高遠さん?」
ドアの外には薄く笑みをうかべた高遠がのぞき窓を見上げていた。
ため息をつきつつドアを開けると、高遠が両手を後ろ手にまわした状態で立っていた。
「どうしたの?高遠さん合い鍵持ってるのに」
「紫苑さん……どうぞ」
「えっ」
合い鍵を持っているのにわざわざチャイムを鳴らしてドアを開けさせた高遠に疑問を持ちながら声をかけると、高遠は後ろ手に隠していたものを紫苑に差し出した。
大きな赤い花束に紫苑は少し驚く。
「バラ、じゃない…………カーネーション?」
一瞬、高遠の必須アイテムになっている赤いバラかと思ったが、よく見るとそれは赤いカーネーションだった。
ふと今日が何の日かを思い出した紫苑は花束を受け取りながら呆れ顔で高遠を見上げた。
「私、こんな大きな子どもを持った覚えはないけど」
「分かってますよ……ただもらってほしかったんです」
いつもより沈んだ高遠の様子に不思議そうに思っていると、高遠が誤魔化すかのように言い訳を始める。
「さっき近くの公園で子どもたちにマジックを披露していたんですが、そのときカーネーションを持った子どもがいましてね。たまには赤いカーネーションもいいかと思ったんです」
「……」
「飾っていただかなくても結構ですよ。捨ててくれてもいいので……」
「……ちょっと待ってて」
じっと高遠の顔を見ていた紫苑はふと思い当たって、高遠にそう言うと部屋の中に引っ込んだ。
しばらくして出てきた紫苑は黒を基調とした服装に着替えていた。
「ちょっと行きたいところができたからつき合ってくれる?」
「!もちろんです。これ以上喜ばしいことはありませんよ」
先ほどまでのなんとなく暗い雰囲気がすっと消え去った高遠を確認してから、紫苑は高遠の先を歩き出した。