ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□蟻地獄壕殺人事件
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曇った空。
冷たい空気。
感じる体温と頬を流れる涙。
周りではたくさんの人が行き来しているのに音が遠く感じる。
「無理に思い出さなくていい」
耳元で声。
抱きしめてくる力がより一層強くなった。
「紫苑、君が証言しなくても、コレがあれば状況が把握できる。だから無理をしないでほしい」
「おとう…さん……」
名前を呼ぶと、修司は紫苑を抱きしめるのをやめて、娘の涙をぬぐう。
「守ってやれなくてごめん。本当によく頑張ったよ」
「……でも…」
「自分を責めないで。これは僕たち大人がやらなければならないことだったんだ」
目の前にいる修司を瞳に映す紫苑はしかし、違うものを見ていた。
それはあの現場では似つかわしくないほどに美しい色―――――――…