ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇

□残り火
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「行方不明だった約一週間,どういった状況だったか説明してもらえるかな?」


殺風景な小部屋。

明智と金田一に説教された時に一度だけ入った事のある取調室で紫苑は取り調べを受けていた。

あのころと違うのは,制服を着ている事と目の前の2人組の刑事が知らない人物であることだ。

ホテルで発見された紫苑はそのまま身柄を保護され,病院で一通りの検査を2日ほどかけて受け,健康に問題がない事が分かるとすぐさま任意同行を求められた。

断る理由はない紫苑はそのまま同行したが,扱いは誘拐された被害者に対するものとは程遠いものだった。

内心手錠を掛けたい気分なのでは,と他人事のように考えながら紫苑は落ち着いた様子で答える。


「学校で強引に連れられてから数日間知らない山奥の建物に軟禁されていました。その後,無人島に連れていかれて数日滞在した後,島を出る時に眠ってしまって,気がついたらあの部屋にいました」

「もっと詳細に話してもらえるかな?どんなに小さなことでもいいからさ」

「山奥の建物の場所は本当に分かりません。島については名前だけなら。黄金島と言ってました。山奥の建物にいたときは基本自由で放置されているようなものでしたから,用意されているパズルを解いたりして時間をつぶしていました。島に行ってからは,あの人の父親が遺したという廃屋でいました。ホテルについては,目覚めてそれほど時間が経たないうちに警察の方々が来てくださったので特に話す事はありません」


紫苑の前に座っている物腰の柔らかそうな刑事の質問に紫苑は事実を淡々と告げる。

島の名前を聞いて,部屋の外で待機している人に指示を飛ばす。

その刑事に紫苑は付け加えた。


「あの人はその島で何かをするつもりみたいなので,早めに手を打った方がいいと思います」

「誘拐されたただの被害者がなぜそんな情報を知ってるんだ!!」


机の横に立っていた強面の刑事が大きな音をたてて机を叩き,紫苑に詰めよる。

その様子に慣れてしまった紫苑は特に顔色も変えずに答えた。


「そういう様子を見せていたので何か行動するつもりなのではないかと思いました。何度か本人にも聞きましたが,はっきりとは断言しなかったのでただの推測ですが」

「連続殺人及び殺人教唆の凶悪犯罪者である高遠遙一と会話しただと!?お前と高遠遙一とはどういう関係なんだ!正直に答えろ!」


聞き飽きた質問に紫苑は内心呆れる。

実はこの取り調べは3日目なのだ。

1日目は誘拐された日の学校に残された紫苑の私物の確認と引き渡し,2日目から本格的な取り調べが始まった。

担当だった刑事は高圧的で,紫苑と高遠の関係を疑っているらしく,何度も関係について質問を繰り返した。

全く話が進まないのを見かねた別の刑事が交代を提案するのと,紫苑が交代を申し出るはほぼ同時だった。

結局1日開けて2回目の取り調べが再開され,直接の担当の刑事は物腰の柔らかそうな刑事—―坂田に変わり,前の担当だった強面の刑事—―郷田はどうしても取り調べに関わりたいらしく坂田の隣で立っていた。

順序だてて質問してくる坂田によって取り調べは進んでいたが,無表情に落ち着いた様子の紫苑が郷田にとって気に入らないらしい。

隙さえあれば突かんと言わんばかりに聞いてくる。

紫苑はゆっくり息を吐くと,郷田に視線を合わせて言った。


「何度も言っているように,犯罪者とそれに巻き込まれている一般人の関係です」

「きさま…!!」


淡々とした様子が心底気に入らないらしく,郷田は険しい顔をし,こぶしを握り締める。

その様子を見た坂田が,まあまあと落ち着くように郷田に声をかけた。

そして紫苑の方を見て言った。


「雪峰さん。我々も疑いたくはないけど,実際に君の自宅や生活圏内で高遠遙一が頻繁に目撃されているんだ。そして君自身も彼が犯した事件に関わっている事が多い。これらから高遠遙一と君との間に何らかの協力関係があるのではないかという疑惑の声が上がっているのも事実でね」

「……」

「君のお父様の立場のこともあるし,本当のことが言えないのかもしれないけど,事実を語る事が全ての解決につながるんだ。ここでの話は公にはしないし,お父様の立場は保証するから」


坂田の話に眉をよせる。

犯罪心理学の研究をしており,時折警察の捜査に協力している紫苑の父――修司の事を持ち出してきたことに紫苑は不快感を覚える。

おそらく何か有力な情報を話さなければ,なにか理由をつけて修司に危害を加えるということだろう。

紫苑は唇を少し噛む。

坂田の笑みが紫苑には本心を隠している無機質な仮面のように見えた。

時計を横目で見てからゆっくりと瞬きする。

部屋に入ってきた時にお昼前だった時計の針は,夕刻になったことを告げていた。



 
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