ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□箱と金とこれから
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「なに……これ……」
たった今、配達されてきた2つの段ボールの中身を確認して、紫苑は唖然とした。
大きめの段ボールの中には、一通の手紙の他はすべて大小さまざまな立方体が入っている。
手紙には流れるような筆記体で、
『これらのすべて解けたころに』
とだけ書かれていた。
送り主は修司の名前だったが、住所がデタラメ。
ダンボールから微かに香る薔薇の香りと、ダンボールに入っていた手紙の内容を見て、紫苑はこの荷物は高遠からのものであると確信した。
「わざわざお父さんが英語で手紙送ってくることはないし……解けたころって、いったいこれは何なの?」
ダンボールから手のひらサイズの立方体を取り出して紫苑はくるくる回したり、振ったりして確認する。
立方体の表面にはあちこちに切れ込みがあり、動かせそうなパーツがある。
振ると中に何かが入っているのか、ものが当たる音がした。
「これって、からくり箱?段ボールの中身、全部?」
見た事のあるそれに紫苑はすぐに思い当たる。
とんでもない数のからくり箱に紫苑は嘘でしょ、とつぶやいた。
そして深いため息を1つついた紫苑は、ダンボールをリビングの隅に移動させた後、手紙を無視するという選択肢があるのにもかかわらず、そんなことに思い至ることなくいくつかの箱を取り出して、ソファーに座って解き始めた。
まず始めに手を付けたのは、見た目が見知っているからくり箱に近い立方体だった。
手探りでゆっくりと、順番に側面の板をスライドさせていく。
30回ほど動かしたところで蓋が開いた。
箱を逆さにして中の物を手のひらの上に落とす。
「これって………パズルのピース?」
出てきたのは何かが書かれたジクソーパズルのピースが1つ。
「……もしかしてあの中身、全部パズルだったりしないわよね……」
紫苑は部屋の隅に置いた段ボールを見つめてつぶやいた。
当然答えが返ってこない中、紫苑は途方もない作業にめまいがしたのだった。
2週間後
毎日コツコツ、読書の時間を返上して取り組んだかいあって、つい先ほど最後の箱を開け、何とか全ての箱を開け終えた。
段ボール箱の中にしまわれた開封済みの箱を満足気に見下ろした紫苑は、後ろに振り返ってテーブルの上に置かれた箱を見つめた。
テーブルの上には、複数の小物入れがあり、からくり箱の中から出てきたものが種類別に入れてある。
からくり箱から出てきたものはジクソーパズルのピースだけでなく、立体パズルのピースのようなもの、何かのパーツ、小さな四角いパネルなど、4、5種類のものが出てきたのだ。
それぞれのピースやパーツがすべてそろっているわけではなく、ジクソーパズルも立体パズルも完成させるにはまだまだピースが足りなかった。
「一体これって何なんだろ……まさか、さらに追加の箱が送られてくるなんてことないわよね……」
パズルのピースを1つつまんで紫苑はつぶやく。
小物入れの中を少しいじっていた紫苑は、これ以上何もできないと判断し、時間を確認すると通学かばんを持って家を出た。
マンションを出た所で視線を感じて、紫苑は立ち止まり、顔を上げた。
ここ最近、時折感じるそれの正体に紫苑は心当たりがなかった。
(また、か。高遠さんではなさそうだし……今度、明智さんか剣持さんに相談しようか)
紫苑は気を取り直して、歩き出した。