ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□獄門塾殺人事件
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「やめっ!」
静止の合図とともにシャープペンシルが机の上に置かれる音があちこちからした。
紫苑もふう、と息を吐き出しながらそっとシャープペンシルをおいて、解答用紙の回収を待った。
紫苑は実家にいる由佳に言われて極問塾で外部生向けの模試を受けに来ていた。
そのスパルタさから陰で「獄門」塾と呼ばれるこの塾で模試を受けるのは今回で2回目だった。
(さすがにここのは難しいな。今回は特に英語が……問題量といい質といい、気合い入りすぎなんじゃないかしら)
思ったよりうまくいかなかった気がする英語のことを考えながら再び小さくため息をつくと机の上に残されたプリントに視線をやる。
『外部生徒の皆様へ
今回の外部試験終了後、模範解答を203相談室にて配布いたします。部数に限りがありますので、お急ぎ下さい。』
(今年は模範解答配るんだ)
ガタガタと音を立てて外部生徒たちが立ち上がる。
紫苑もそれに合わせて立ち上がり、荷物を持って203相談室に向かった。
「良かった。最後の一冊」
203相談室に着くと、部屋におかれた机にぽつんと模範解答が置かれていた。
(結構急いできたんだけど、本当に部数が少なかったのね)
無事に模範解答を手に入れたことに安心しながら、パラパラと中身を見ていく。
記憶している解答と照らし合わせていると、紫苑は途中で手を止めた。
「あれ?英語の答案がない?」
飛ばしたかと思いもう一度念入りにページをめくると、英語の模範解答が入っていていいページから一枚の花びらが滑り落ちてきた。
それは赤い赤いバラの花びらだった。
「これって……」
ジリリリリリリリリ
「っ!なに?」
突然なり出した非常ベルに驚きながらも、紫苑は音のする方に向かった。
音源は2つほど離れた教室からで、教室に入ろうとしたとき後ろから大人数分の足音が聞こえて振り返った。
「紫苑ちゃん!」
「雪峰さん」
「美雪!村上も」
集団の中から見知った顔を見つける。
緊張した様子を見て、紫苑は205相談室のドアを開けると集団の先頭に道をあけた。
「茂呂井!」
相談室には音源となっていた非常ベルと、そのボタンを押し続ける男子生徒の後ろ姿があった。
名前を呼ばれたのにも関わらずピクリとも動かない茂呂井に金髪のいかにもガラが悪そうな男子生徒──鯨木が近づく。
「なにやってんだよテメー!」
そう言いながら鯨木が茂呂井の肩に手をおいたとたんに、バランスを崩してズルッと倒れた。
目を見開いた顔には生気はなく、現場に居合わせたみんなの口から悲鳴が漏れた。
「うわあああ!!」
「もっ……茂呂井!?」
「きゃああああああ!!し……死んでるの?茂呂井君!?」
紫苑はそっと茂呂井の身体に近づくと首に指をあてて脈を取る。
少し眉を寄せると 紫苑は顔をあげて美雪たちの方をみて小さく首を横に振った。
「そんなっ!」
「おい誰か!救急車を…!!いや、警察もだ!」
バタバタと慌ただしくなる相談室で紫苑は茂呂井の遺体を見ながら、手にしていた模範解答をぐしゃりと握りしめた。