ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□魔術列車殺人事件
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とある放課後
紫苑と金田一、美雪の3人は学校近くのファミレスでのんびりと時間をつぶしていた。
というのも、お腹がすいたと言い出した金田一の提案であるため、まだ夕食時には少し早いがそこそこの量の料理がテーブルに並んでいた。
「……本当にたくさん食べるよね」
美雪に食事のマナーについて注意されていることに構うことなく盛大に音をたてて、運ばれた料理を1人でどんどん消費していく金田一に紫苑はあきれ半分感嘆半分のつぶやきをこぼす。
「つい最近に事件に巻き込まれて、数日だけとはいえ入院していた人間とは思えない」
「あんなの怪我のうちに入らないって」
「口の中にもの入れたまましゃべらない!」
つい先日起こった、紫苑自身も巻き込まれた蝋人形殺人事件を思い起こしながらの一言に金田一は余裕な様子で答える。それに美雪がすかさず注意を挟んだ。
(後味悪い事件だったなぁ)
金田一たちと知り合ってから、一緒に行動することが多いので事件にもよく巻き込まれる。
いつも持ち前の推理力で金田一が事件を解決するのだが、犯人が自殺したときは紫苑の胸に何ともいえない無力感が居座る。
紫苑はどんな犯罪にも必ず何らかの動機があると信じてやまない性格なので、今回の犯人の動機にも同情の余地はあったと思っている。
愛した人の作り出した完全犯罪で復讐した彼女は満足そうな顔をしていたが、本当にそれで良かったのかと思うのは余計なお世話なのか。
ぐるぐる回る思考から金田一の声で抜け出す。
『俺たちができることはやったんだ。落ち込むことないって』
入院中、同じように悩んでいたのを金田一に悟られてかけられた言葉。
(なんだかんだ言って金田一には助けられてばかりだ)
「なんか付いてるか?」
食事を終えた金田一が紫苑の視線に気づく。
「いや、金田一に解けない謎はないんだなぁって」
「いやーそれほどでも」
照れる金田一に内心微笑みを浮かべると紫苑は立ち上がった。
「そろそろ帰るよ。今から帰って夕食作らないと」
1人暮らしって大変ね、と言った美雪にまぁねと返して2人と別れた。
家に帰る途中、壁に貼られたポスターに目をやる。
(マジックショー、か)
それは毎年北海道で行われるマジックショーのものだった。
(もしあの時金田一が現場にいたら、真実を明かしてくれたかな)
暗い顔でポスターを指先でなぞる。
それが今同じファミレスで剣持警部と佐木を含めた5人で集まる、数日前の出来事である。