ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇

□残り火
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「父と私のこの一件の事は無関係です。警察が人質を取るようなことを言っていいんですか?」


少し眼光を鋭くした紫苑の言葉に郷田は黙る。

坂田は表情を変えずに一息置くと,口を開いた。


「そのつもりで言ったわけではないんだけどな。君も知っていると思うけど,犯罪者の逃亡を助けたりすることも立派な犯罪なんだ。雪峰教授にはたびたび捜査に協力してもらっているけど,娘が犯罪者ってことになると警察側としてもそれなりの対応をしないといけなくなるし,教授も困るんじゃないかな?」

「……」


そう言った坂田を紫苑はまっすぐ見る。

郷田よりも厄介そうな目の前の男に紫苑はもう一度担当が変わらないものかと思った。


「何度も言いますが,私は事実を言っていますし,偽るつもりもありません。私とあの人の間には何もありません」

「わからないよ?高校生とはいえ,君は女性だ。君にその気があるのかどうかは知らないけど,高遠遙一はただの一介の高校生とは思っていないかもしれないよ?」

「…………」


坂田の言葉に紫苑は眉をよせたが何も言わなかった。


「じゃあ,今日はここまでにしようか。明日も同じ時間に事情聴取に協力してもらってもいいかな?」

「はい」

「ありがとう。じゃあ,帰りもこちらが送るから部屋の外で待っててくれるかな?」

「わかりました」


紫苑は立ち上がり,軽く会釈すると部屋を出る。

取調室を出て少し歩いて紫苑は壁にもたれかかる。

深くため息のついた紫苑はそのまま膝を折りたくなったが耐える。

静かに目を閉じてゆっくりと呼吸をする。

体が重い気がする。

紫苑は帰ってきてからまともに睡眠がとれていない気がしていた。

寝付けないのもあるが,眠っても眠りが浅い気がする。


(こんな時に体調壊したくないし……気を付けないと。とにかく休める時に休んで…)

「雪峰さん」

「……正野さん」


名前を呼ばれて目を開けると,明智と剣持の部下である正野がいた。


「お久しぶりです」

「そうだね。それにしてもどうしたんだい?今日は明智警視と剣持警部は休暇でいないんだけど…」

「あ……その,知らないんですか?」


紫苑の一言に正野はピンときていないようだった。

紫苑は周りを見る。

少し離れたところに見張りの刑事がいたため,紫苑は少し背伸びをして正野に今までの状況を耳打ちする。

正野はそれを聞いてバッと紫苑の方を見た。


「あの人って彼の事かい!?」

「しー!」


紫苑は慌てて周りを見る。

見張りは特に気にしていないようで紫苑はホッとする。

紫苑は小声で正野に聞いた。


「このこと,明智さん達は知らないっていう事ですよね?」

「そ,そうだね。知っていたら明智警視も休暇を取らないだろうし……でもなんで他の班が,しかも極秘に捜査なんて……ちなみに事情聴取を担当している刑事は誰なんだい?」

「坂田刑事と郷田刑事です」

「……」


名前を聞いて正野は眉をよせて黙り込む。

紫苑は何かあるのかと思ったが,正野はそれ以上何も言わなかった。

正野は眉をよせたまま言う。


「明智警視に連絡を取ってみるよ。雪峰さんは辛いと思うけどもう少し待ってもらえるかい?」

「わかりました。ちなみに明智さん達は今日で休暇を取って何日目ですか?」

「えーっと……確か2日目だよ。それがどうかした?」

「黄金島」

「?」

「あの人が何かを企んでいる場所です。もし巻き込まれているなら2人はそこにいるかもしれません」

「こら!君!」


怒鳴り声がして紫苑は声の方を見る。

ここ数日,紫苑の送り迎えをしている刑事と郷田が近づいてきていた。

紫苑が話している相手が正野であることを認識すると,急いで駆け寄ってくる。

紫苑が正野の方を振り返ると,正野は小さくうなずいた。


「急いで連絡を入れてみるよ」


そう小声で言うと正野は何もなかったかのように紫苑に別れを告げて立ち去った。

それと入れ違いで郷田たちが紫苑のすぐそばに来た。

正野の背を見ていた郷田はギロリと紫苑を睨みつける。


「何か余計な事は言ってないだろうな」

「別に特別な事は何も」


睨みつける視線にも動じずにとぼける紫苑に郷田は大きく舌打ちする。

行くぞという郷田の一言で一行は歩き出す。

紫苑はそれについていきながら,早く明智や剣持が来ることを切に願った。



 
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