ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇

□薔薇十字館殺人事件-後編-
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「つまり犯行後,犯人があの南端の部屋から逃げるとしたら,必ずどこかで誰かに出くわしてまきゃならないのに,誰も犯人と会っていないの!この状況で誰にも会わず禅田さんを殺す事ができたのは,地下南端の部屋の扉の前に立っていた遠山さん。あんたしかいないじゃない!」

「ちょっ…ちょっと待って冬野さん!」


冬野の考えを白樹が止める。


「自分の部屋にいたって言う佐久羅さんはどうなんですか?廊下をまっすぐ行けば南端の部屋じゃないですか!」

「おいおい!俺は指示に従っただけで…」

「それは不可能です」


佐久羅は白樹の発言にうろたえるが,毛利が否定した。


「鍵がなくなっているのもありますが,先程皆様が見た通り,部屋の扉は内側からも外側からも釘で打ち付けられていてびくともしないのですから」

「その理由で私も容疑者から外れますね。でも…」

「ほら!」


毛利の一言に紫苑は付け足し,それでも高遠を疑うのは早すぎると言おうとするが冬野によって打ち消される。


「わかったでしょ!やっぱりこの人が犯人よ!!」

「ちょっ…ちょっと待ってくれ!」


高遠を犯人だとする空気に金田一も歯止めをかけようと声を上げる。

そんな中,何も言わない高遠のジャケットの裾を引いて紫苑は小声で言った。


「どうするの!?このままだと犯人の思惑通りになるわよ」

「ここで私が何を言っても彼らには言い逃れにしか聞こえないでしょう。ここは金田一君に任せてみましょう」


そんな会話をした直後,毎度のように突然彼女は詩を詠みだした。


「赤き薔薇はかく語りき……

悲しき“ニオベの娘”よ

そなたを射止めし銀の矢を放ちたる者は

オリンポスの神にあらず――

血塗られし地獄の使者――」


そう言った月読の視線が高遠に向けられたとき,紫苑は月読が高遠の正体を知ったのだと知り,ひゅっと息を吸い,高遠のジャケットの裾を握りしめた。




 
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