ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□巡り合わせ 1
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犯罪心理学の方面で捜査協力を要請され、先ほどまで犯人に関するプロファイリングを元に助言をしていた、紫苑の父で心理学者の雪峰修司は部屋に通されて、こちらが深刻な空気をまとっても穏やかな態度を崩すことはなかった。
「あなたをそんな様子にさせる話とは、一体なんですか?」
「……度々、捜査協力のためにここにいらっしゃる教授はこの人物をご存じのはずです」
胸ポケットから数枚の写真を取り出して机の上に並べる。
雪峰教授は、そのうちの1枚を手にとって眺めた。
「彼は…高遠遙一ですね。最近香港で事件を起こして逮捕されたという」
「ええ」
見せた写真は高遠を逮捕した後に撮影した最近のものだった。
脱獄の前科がある高遠は通常よりも厳重な警戒態勢をひかれた状態で収監されている。
「彼がどうかしたんですか?」
「やはり娘さんからは何も聞いていないのですね」
親に心配をかけたくないという理由で話さなかったのだろうが、事態が事態である。
普段から習慣のようにマンションに侵入されていることもそうだが、香港での一件は怪我をさせられるなどの大事にはならなかったものの保護者に伝えなくてはならないことだ。
明智は香港での出来事を、特に紫苑に何があったのかを警察側が分かっている一部始終を伝えた。
そのときの雪峰教授の反応は驚きというよりも、むしろ納得といったものに近かった。
「なるほど……それで、ですか」
「何か?」
「いえ、帰国してきた娘の様子で気になるところがありましてね。今の話を聞いて納得しました」
徹底的に隠しているだろう紫苑から何らかのとっかかりを得ていることに明智は感嘆する。
「高遠は自身が北海道で起こした事件以来、紫苑さんに執着し、頻繁に接触しているようです」
「おや、それはそれは」
そこでようやく驚いた素振りを見せると雪峰教授は顎に手を当てて少し考え込んだ。
「不思議な巡り合わせもあるものですね」
「?」
小さな声ではあったが、しっかりと耳に届いた雪峰教授の唐突な発言に疑問符をうかべる。
「今日は帰りに娘のところに寄ることにしましょう。本人にそのことを問いただすかは別として、色々と話し合いたいこともありましたしね」
「そうしてもらった方がいいでしょう。最近は高遠と接触したさいの情報を必要最低限以上開示したがらないので、もし何か気づいた点がありましたら教えてもらえると助かります」
「私の出来る範囲のことはやってみましょう」
もとの様子に戻った教授はただ静かに微笑んだだけだった。