ピンクのバラに捧ぐ赤い薔薇
□薔薇十字館殺人事件-後編-
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部屋の中で香る柔らかく,上品なバラの香りを,深呼吸して吸い込むたびに不安はその分膨らんでいった。
張り詰めた精神は部屋の外の気配まで達していたらしく,廊下の足音で紫苑は椅子から立ち上がり,ノックの音がするや否やドアを開けた。
「紫苑ちゃん!」
「美雪!何かあったのね?」
「ええ…禅田さんが殺されたの。紫苑ちゃんと佐久羅さん以外みんな集まってるから,行きましょう」
「わかった」
呼びに来てくれた美雪に連れられた地下の南端の部屋の前には神妙な顔で禅田以外のみんなが集まっていた。
着いてすぐに紫苑は高遠と金田一に状況を確認する。
「美雪から聞いたけど,禅田さんが殺されたって」
「本当ですよ。この先の階段を上った部屋でボウガンの矢を受けていました。確認してきますか?」
「馬鹿な事言わないで。話を聞くだけで十分だから」
「雪峰はローゼンクロイツからなんて指示されたんだ?」
「遠山さんから聞いてると思うけど,11時40分に私の部屋の中で待機って。ずっと部屋の中で何もしないで待ってたけど特に何があるわけでもなかったわ」
「そーか……」
金田一はそう言うと,紫苑に他のみんなにもローゼンクロイツが来ていた事,それぞれの指定された時間と場所が違う事を教えてくれた。
「……つまり,金田一と美雪は禅田さんが襲われているところを一番に目撃して,禅田さんが襲われた部屋に行くまでに最後に合流したのが遠山さんってことね」
「そうなるな」
「そう……(もしかして犯人の狙いは,高遠さん…)」
話を聞いて犯人の今回の目的についてなんとなく思い当って眉をよせたその時だった。
「あんたが犯人ね!」
突然冬野が高遠を指して言い放つ。
紫苑は早速その予感が当たったと心臓をはねさせた。
「ふ……冬野さん!?」
「え……どういう事?」
「だって,今の話が本当なら遠山さんにしか禅田さんを殺す事は出来なかったはずよ!」
周りが戸惑う中,冬野はひるむことなく金田一たちと話していた,この事件のあらましを館の見取り図を使って順番に整理していく。
金田一と美雪が禅田が襲われているのを目撃したのが11時55分
西の勝手口から館に入り,ホールには白樹がおり,地下のダイニングには毛利。
その後騒ぎを聞きつけて降りてきた冬野と月読。
地下の南端の部屋の扉の前には1人で立っていた高遠。
その順番で合流していた。
そして冬野はこの事件の重大なポイントを告げた。